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babysitter
8日目


「かのこ、こっちがボスの分、こっちがあなた達の分よ。飲み物はこのポットね」

少し重いから気をつけてねとルッスーリア隊長が籐のバスケットを2つ手渡す。
赤頭巾ちゃんが持っているようなバスケットはどちらもかなりずっしりと重くて、XANXUS様用のからはワインが覗いている。そりゃ重いはずだ。でもどちらからもすんごいいいニオイがする。

「気をつけてね〜」

朝から結構テンションの高いルッスーリア隊長に見送られた私はお礼を言って急いで外に出た。

「おせえ」

「ママン、早く早くー」

実は今日は何故かいきなりピクニックなのだ。
朝叩き起こされたと同時に軽くセクハラも受けて半泣き状態の私にXANXUS様は外の天気を見ながら言った。

「着替えろ、出掛ける」

「はい?」

「今日みてえに小鳥がぴよぴよ鳴いてやがる日にはピクニックって決まってんだろうが」

かわいそうな脳がまだ寝てるのかと思った。
小鳥がぴよぴよって…しかも決まってるって言い切ったよ。

「わーい!一緒にお出掛けだね!」

いつの間に起きたのかマーモン隊長が隣で手を叩いて喜んでいる。今朝はとてもご機嫌そうだ。
モチロン拒否権なんか存在しないから、ルッスーリア隊長に寝起きのままお弁当をお願いしに行くハメになったのだけど。

「お、お待たせしました」

XANXUS様と一緒に出かけるとか初めてだ…両手が塞がっている私がベビーカーを引けずにもたもたしているとXANXUS様がベビーカーを押してずんずん歩き始めた。
あ、でもどっちかって言えば荷物を持って欲しいんですが。

「とろとろしてんじゃねえ」

「す、すいません」

足が長いのもあるんだろうけど、暴走ベビーカーと言っても過言じゃないくらいの勢いでガラガラと激しい音をたてながら遠ざかっていく。
必死で追いかけると、お城の裏の小径を抜けた辺りに流れる小川の畔にXANXUS様達はいた。

「おい、敷くものを出せ」

「任せて、パパン」

マーモン隊長の指一つで高そうなラグが現れた。
綺麗に整えろと顎で促された私は、よたよたしながらバスケットを下ろすとムダにでかいラグを気持ちよさげな芝の上に広げる。ホントに人使いが荒いな、この人。でも怖いから逆らえない。

「酒」

早速ラグに腰を下ろすと長い脚を放り出して要求する。
何だよピクニックとか言って、小鳥とか天気とか関係ないじゃんと内心愚痴りながらワインをバスケットから出した。
うっ、うまくコルクを抜けない…だいたい私未成年だし飲んじゃいけないんだもん!開け方なんか解らないよ!

「貸せ」

見かねたのかXANXUS様が私からボトルを奪い取る。
目の前であっという間にコルクを抜いてみせ、その掌を広げた。男の人らしい大きな手にちょっとドキドキしてしまった。

「おい、グラス」

「あっ、はい!」

ピカピカに磨かれたグラスにXANXUS様の眼と同じ赤い液体がこぽこぽと注がれるのに見とれていた私は自分を呼ぶマーモン隊長の声に我に返った。

「ママン、魚がいる」

XANXUS様はごろりと寝転んでワインを飲んでいるから、私は隊長を抱いて小川を観察することにした。確かに小さな魚が太陽に反射してキラキラして見える。
お城の近くにこんなとこがあったとは…少し開けたそこには良い匂いの花も咲いていてのんびりしたくなるようなところだ。
XANXUS様がこんなとこ知ってたのは意外だけど。

「おい、親子水入らずって意味がわからねえのか?」

「はい?」

どうやら二人で小川で遊んでいるのが気に入らないらしくXANXUS様は自分の隣を叩いている。

「腹減った」

「は…はぁ…」

寝そべって一歩も動こうとしない。
XANXUS様用のバスケットを手渡したら、おっきな骨付き肉を幾つも取り出した。大好物に機嫌が良くなったみたいで一つ分けてくれる。

「ボクにはー?」

「てめえはミルクでも飲んでろ」

泣き出しそうな気配を感じた私は慌ててルッスーリア隊長特製のサンドイッチを渡す。
こんなとこで愚図られたんじゃたまったもんじゃない!

「ほら、おいちいよー」

「ぐすん…あーん」

小さな口に入れてやると、隣で寝そべっていたXANXUS様まで口を開けたので私は目を疑った。
ま、待ってるのか、サンドイッチを!?
大きな口を開きっぱなしのXANXUS様は固まってしまった私を睨み上げている。や、やばい。
恐る恐るサンドイッチを口元に運んだら、がぶりと指ごと食べられた。

「…肉をよこせ」

サンドイッチを呑み込むと私の指をペロリと舐める。
ぎゃー、何なんですか、このプレイはー!

「パパンは甘えん坊…」

また大きく口を開けたXANXUS様に今度は豚カツを運ぶと、マーモン隊長が拗ねたように呟く。
結局その後も延々あーんをさせられたせいか自分の食欲はすっかり失せてしまった。

「それなりに楽しかったじゃねえか」

「三人で初めてのお出掛けだしね、ママン?」

「う、うん…」

三人でラグに横になり、ぽかぽかした陽気に当たりながら昼寝した。
いつの間にか緊張はほぐれていて、私は久しぶりにうろ覚えのパパの夢を見た。よく考えたら親子でピクニックなんかした事なかったな…

ぼんやり青い空を眺めているこの時間が何だかちょっと幸せに思えたのは内緒だ。



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