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babysitter
初日


今日は私にとって、記念すべき日になる筈だった。


何の因果かヴァリアーに入隊して約半年、そもそも暗殺とか諜報とかそんな恐ろしいことなんか出来もしないしやった事もない私がここにいるという事自体がおかしな話なんだけど。
今考えても、どうして入隊する事になったのか分からない。
本当に少し前までただの女子高生だったんだもん。
イタリア語も分からない私は、よく分からないままに配属されて高そうな隊服ももらった。
私の上司にあたる人は、信じられない事に、なんと赤ちゃんだった。

顔の半分から下しか見えない黒づくめの赤ん坊のとこに連れてかれて、「今日からオマエは隊長のオムツ当番だ」と言われた日の事はたぶん一生忘れられないと思う。
その赤ちゃんが、幹部の一人であるマーモン隊長。
それから私は布オムツしか使わないと決めているマーモン隊長のオムツを洗ったり干したり補充したりする係をずっとやっている。
もちろん一日中オムツ係しかやらずにお給料がもらえるわけじゃないから、隊長のパシリみたいな雑務も私の仕事。
確かにここじゃ私に出来る仕事はそれくらいしかないから仕方ないんだけどさ…結構マーモン隊長は口うるさい。
日本語が話せるし、超カワイイ赤ちゃんだったから始めは嬉しかったんだけど、メチャクチャ手厳しいんだもん、小舅みたいだよ。
オムツのたたみ方一つでいきなり機嫌が悪くなったりするから大変だ。


でも、今日でそのオムツ係を卒業出来るらしい!
一週間位前に、ルッスーリア隊長の隊に異動になるよとマーモン隊長に言われて部屋で思いっきりバンザイしてしまった。
ルッスーリア隊長はオカマらしいけど、優しいって噂だからきっと何のスキルもない私でも一から鍛えてくれるに違いない!
明日から新しい未来が待ってるぜーと鼻歌を歌いながら、今日干していたオムツを届けにマーモン隊長の部屋をノックした。
お昼寝中かな?
今日は任務はないって言ってたんだけど返事がない。
赤ちゃんだけあって、隊長はよくお昼寝している。
ノブに手をかけたら鍵がかかってないのでそーっと中に入り、いつも薄暗い隊長の部屋のベッドサイドに歩み寄る。
無駄に豪華なオムツ用タンスがそこにはある。

「あっ、隊長いらっしゃったんですか?」

ベッドの上でマーモン隊長がもぞもぞしている。
今更だったけど「失礼します」と言ってオムツを所定の位置にしまっていった。
怒られない内に早く部屋を出なきゃ!

「…ママン?」

小さな声が聞こえた気がしてキョロキョロ辺りを見回していると、今度はハッキリ聞こえる。

「ママン!」

「……」

私疲れてんのかな?
隊長の声に聞こえたんだけど。

「どこ行ってたの、ママン?」

間違いない、マーモン隊長だ。
しかも何故か私をガン見しながら言ってるし!
寝ぼけてるのかしらないけど、聞いちゃいけない言葉を聞いてしまった気がする。
さっさと出て行こうとしたら、隊長がわーんといきなり泣き出した。

「ママン、どこ行くのー?」

「えっ…ママンって私ですか?」

普通の赤ちゃんみたいに泣きじゃくるマーモン隊長に私は聞き返す。
隊長が泣いてるとことか見た事ないんだけど!
どうなってんの!?

「うわーん、ママンが置いてくよー!」

手足をバタバタさせてすごい声で泣き出した。
やべ、ホントにどうしたらいいんだろ?
オロオロしてなだめようとしたら、背後からいきなり声がする。

「…てめえ、何してやがる?」

「ひいぃっ!?」

ビックリして振り返ったら、ざ、ざ、XANXUS様がいた!
私は慌てて首を振りながら答える。

「マ、マ、マーモン隊長様が、いきなり泣き出してしまわれてですね…」

嘘じゃないんです!
かっ消さないで下さい!
私はしがないオムツ係でして、何ら悪いことはしてません!

恐ろしい顔をしたXANXUS様は、マーモン隊長のそばに歩み寄るとわんわん泣いている姿を無言で見下ろしていた。
XANXUS様と並ぶと、マーモン隊長はホントに小さい。

「おい、マーモン、どうした?」

XANXUS様の低く響く問いかけに、ぴたりとマーモン隊長が泣き止む。
え、すごい。
これがボスの力?


「…パパン…!」


泣き止んだマーモン隊長の口から嬉しそうに飛び出した言葉に、XANXUS様がドン引きして固まってしまったのが分かった。

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あきゅろす。
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