新KYO
3
声にならない声を上げるゆやを、男は楽しげに見つめる。ぐっ、と腕を捩じ上げ、小刀がゆやの手から滑り落ちると、すぐさまそれを蹴り飛ばし、彼女を先ほどまで彼が背にしていた木に後ろ向きに押し付けた。
「くぅっ!」
痛みに声を上げたゆやを、嘲笑うように見下ろす。そして指で彼女の着物の襟を辿りながら耳元に唇を寄せ、囁くように言った。
「さぁ、何処に隠してるんだい?出して、さっきみたいに僕に迫ってごらんよ。狂を狩るより、君を狩った方が楽しそうだ」
クスクスと嗤いながら、男の手がゆやの襟元を辿り、すっ、と胸へ滑り込んできた。ゆやの顔から一気に血の気が引くが、唇を噛み締め、悔しさを耐えるように目を閉じた。
こんなことなら、真っ直ぐ家に帰るべきだったか。だが、もし家に狂がいたら、彼に無駄な血を流させていたかもしれない。
ゆやはぐっと奥歯を噛み締めると、大きく息を吸った。
「だから…あんたなんかには使わないって言ってるでしょっ!」
そう言うと、少し油断して緩んでいた男の拘束を抜け出すように身を縮め、一気に飛び上がった。
「ぐっっ!!!」
顎にまともにゆやの頭突きを喰らい、呻き声を上げよろめく相手を突き飛ばすが、反動でゆやも倒れた。それでも必死で這うように、小刀を拾い上げようと地を蹴る。だが、すぐに相手に足を捕まれ引き倒された。
「このアマ…っ!」
怒りに染まった相手が、ゆやの首に手を掛けようとした、その刹那。
ゆやは、大きな風と、青い炎を感じた。ゆやの上に馬乗りになっていた男が、その風に攫われるように飛ばされ、木にぶつかって落ちる。
「何を、している…」
風の来た方を見て、ゆやは目を見開いた。
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