新戦国
2
町外れまで一気に駆けると、森の小道へ進んだ。暗い森の中、覚えている地形を頼りに主の元を目指す。国境まではもうすぐのはずだが、後ろからは松明をもった武士達の怒声が聞こえてきた。
「案外早いなぁ」
斬られた腕は痛みを増すが、今は逃げるしかない。
「梟でも仕込んでおくんだった」
夜目の利く梟を仕込んで、密書さえ主に渡せれば、忍びの私が持って帰る必要もなく、そうなれば例えここで死んだとしても、お役目は果たせるのだから。師匠でもあった父親に、お前は最後の詰めで甘いと言われていた事が、今身に染みて分った気がした。
「こっちのはずだ」
「探せ!」
「国境を越えさせるな!」
段々と近づいてくる声と気配。人の足音に混じって、当然の如く犬の足音も聞こえてくる。ガサガサと探っているような音に、一つ身震いした。
「なんとか…なんとかしなくちゃ」
必死で考えていたその時、ふと過ぎった事があった。そういえば…この辺りを下見していた時、暇だからと一緒にいた主が言っていた事を思い出す。
『多羅葉(たらよう)か…こんな所にもあったとは、ねぇ』
そうだ、多羅葉だ。その時、こう返したことも思い出す。
『本当ですね…椿と同じで冬枯れしないから、こういう時期だと分りやすいですね』
『あぁ、そうだな』
『いざという時は、これに文でもしたためておきますから』
『おいおい、そんなのはなるべくないように頼むぜ?』
『分ってます、もしもの時にはってことですよ』
――冗談で言っていたことだが、今、そのもしもの時ではないだろうか。
「あの樹…たしかこの辺だったはず」
気配を消したまま、静かに移動すると、私は目的の樹を目指した。
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