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新戦国
1
穏やかな陽気と美しい鳥たちの囀りが心地よい天上の国に、名無しという名前の一人の天使がいました。いつも穏やかな笑みを湛えた彼女の背中には、生まれた時から6枚の翼が生えていました。その輝く白い翼はとても美しかったのですが、名無しはごく平凡な天使でした。本来、多くの翼を持つものは位の高い天使であるのですが、彼女は特別な力があるわけでもなく、周囲も本人も不思議に思っていたのです。どうして私の背中には、こんなにたくさんの翼があるんだろう。

小さな頃は彼女の両親が、

『それは、名無しにしかできないことが、大人になったらあるからだよ』

と、彼女が尋ねる度にそう答えてくれていました。だから彼女はその言葉を心に秘め、いつか自分にしかできない何かのために、その真っ直ぐな瞳に強い意志を宿し、日々過ごしていたのでした。

そんなある日。名無しは深い眠りの中で、夢を見ました。夢の世界は冷たく寒い氷の森で、その森にそびえ立つ氷柱に、人影が見えました。氷柱は所々が雪に覆われ、顔がよく見えないのでしたが、一人の男性のようでした。その男性は氷に閉じ込められ、固く閉じられた瞳は瞬き一つしませんでしたが、なぜか名無しは、彼に呼びかけられている気がしたのでした。彼女はその氷の人に心を奪われました。そして名無しが目覚めた時、彼女はその瞳から、涙を零していたのでした。

名無しはあの氷の森を知っていました。そこは一面を氷に覆われた場所で、天使は決して近づいてはならないと言われている場所でした。ですが、彼女は次の日も同じ夢を見て、そして涙を流しながら目覚めるのでした。心に呼びかける声はどこか懐かしく、名無しはついに、その氷の森へ、一人で足を踏み入れました。

氷のその人は、森の一番奥に、静かに佇んでいました。森を包む冷気は名無しの肌を刺しますが、彼女は目の前の氷の柱に目を奪われたまま、ゆっくりとそれに近づくと、そっと頬を寄せました。冷たい氷はあっという間に彼女の体温を奪っていきますが、その分、僅かに氷の柱を溶かしていきます。名無しはそれをとても嬉しく感じました。こうやって、ゆっくりとではあっても、少しずつ、少しずつ、この氷が溶けていけば、この人はいつか、この中から抜け出すことができる。

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あきゅろす。
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