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新戦国
3

人の気配を感じ、左近は我に返った。色々と思い出しているうちに、どうやらねねに言われた桜の園へ足を運んでいたらしい。

花見に出るほんの一刻ほど前、左近はねねに呼び出され、彼女の計画を聞かされた。

「ねぇ、左近!あたし、良い事思いついちゃったんだよ」

「なんです?おねね様」

「お花見で、名無しに思いを告げちゃいなさい」

「…は?」

「いい?あたしがあなたとあの子を二人っきりにしてあげるから。大丈夫、あたしの命令なら、うちの人だって逆らえないんだからね!」

自信満々に言うねねには、確かに誰も逆らえないだろうと左近は思うと、自分が何を言ってもこの計画は遂行されるのだと内心でため息を吐いていた。

「さて、と。どうしたもんかね」

ゆっくりと近づいてくるのは、左近の求めるその人の気配だ。だが、ねねの計画通りこの場で待っているのも、なんだかわざとらしい気がした。とりあえず、桜の咲き乱れる庭園に足を踏み入れ、一本の大きな桜の幹の後ろに回りこんだ。戯れに手にした打掛を羽織れば、なんだか可笑しくなって思わず笑みが浮かぶ。見上げれば頭上は薄く色づく桜の花弁が、ひらりひらりと舞っていた。

さて、どうしたものか。

桜はひらひらと花弁を降らせるだけで、答えてはくれない。だが、左近は未だに迷っていた。名無しの前に出てこの思いを告げることなく、彼女がここを通り過ぎてしまえば、きっともう機会はないだろう。そして秀吉の選んだ然るべき相手の下へ嫁ぎ、名無しはきっと幸せになる。そんな事は分り切ったことだ。だが…もし、彼女が自分に想いを寄せてくれているのなら。ねねの言う通り、想いを通わせることができたのなら。それが彼女にとっての一番なのだろうか。

見上げたまま目を閉じて思い悩んでいた左近の耳に、女の声が聞こえた。

「そこの者…姿を見せよ」


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