新戦国
2
思わず書簡を書く手が止まっていた。躊躇いがちに告げられた言葉だが、それぐらいの衝撃があったのだ。
「うちの人が…相手を見つけてやるって。政略結婚になるかもしれない」
呟くように言われた言葉に、左近は一息零すと手を進めた。
「そう…ですか。まぁ、秀吉様の薦めるお人なら、名無しも幸せになるでしょうな」
動揺を気取られないよう、筆先に集中するが、ねねはそんなことには構わない。きっ、と口を結び眉を寄せると、左近の顔を徐に両手で掴んだ。
「ちょ、おねね様!」
「まったくこの子は!意地っ張りなんだから!そんな所、三成に似なくてもいいんだよ?」
「ですが、事実でしょう」
左近のその言葉に、ねねはため息を零した。左近を解放すると、元いた場所に腰を落ち着け、再び口を開く。
「男は本当に勝手だね。女は…好いた人と添い遂げられたら、それで本望なんだよ?あたしは、うちの人と一緒になれて嬉しかったし、今も幸せだもん。きっと、名無しも同じ。あの子は…左近の事を想っているよ?」
ねねの言葉が真っ直ぐ頭に入らなかったのは、思ってもみない言葉だったからだ。左近は目を見開くと手にしていた筆を置いた。
「おねね様、何を仰ってるのか分りませんね」
「左近がどう取るかは、あなた自身に任せるよ。だた、後悔はして欲しくない。今は戦乱なんてないからね、きっと忘れてしまってるんだろうけど…明日が約束されてない時代なら、もっと左近も素直だったんじゃないのかい?」
澄んだ瞳で左近を見つめるねねに、ほんの少し前の時代を思い出した。毎日が戦と国造り、そして主君探しの日々。たしかにあの頃は自分の生き方に明日などなかったかもしれない。だから後悔しないよう、それだけを思って生きていた。今は豊臣の世となり、安定した生活をしているが、その分、そういうことには疎くなっているのだろうか。
思い悩むような左近に、ねねは更に言った。
「あたしは見ててもどかしいの。想い合っている二人が、想いを告げないまま別れるだなんて理解できないもの。ねぇ、左近。あなたは知らないかもしれないけどね。触れ合わないまま終わってしまったものって、一生残るんだよ。あたしは…二人が何かを押し殺したまま別れる姿なんて、見たくないからね」
あの子も左近も、あたしにとっては大事な子に変わりないんだから、幸せになってほしいの…そう言って微笑んだねねに、左近は何も言えなかった。
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