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新戦国
3
「あった」

樹を見つけ出した私は、下の気配に注意しながら木に登り、下からは見え難い位置に密書を結わえた。そして葉を一枚千切り、腰に着けた道具入れから取り出した小さな匙の先で、なんとか葉に傷を付け文字を書く。暗いので分り辛いが、大丈夫だろう。それを密書に挟むと、もう一枚千切って、主と私にだけ分る印を描き、それを持って下へと降りた。すぐ近くまで敵の気配が来ていたが、その印をつけた葉を隠すように根元へと忍ばせ、そっとそこから離れた。

「さて…と」

多羅葉の樹から十分離れたところで、私は大きく深呼吸をした。気持ちを落ち着けるように少し目を閉じた後、静かに瞼を上げる。小刀を取り出すと、小さな傷でも血が出やすい指先を、すっ、と切り裂いた。鋭い痛みが走り、血がぽたぽたと滴り落ちた。

「私はここだ、くるなら来い」

そう呟くと、爪先から頭の芯まで、ピン、と張り詰めた緊張が走る。恐怖も不安も、緊張と興奮に置き換えられていくようだ。

がさっ、と足音がした。四つ足の音がした後、人の大きな音がする。私は得物をかまえると、そちらの方を見た。

「いたぞ、女だ!」

犬を連れた男が叫び、松明を手にした武士達が駆けて来る。あっと言う間に取り囲まれ、逃げ場はなくなった。

「女。密書を渡せば命ぐらいは助けてやる」

一人がそう言うが、それが嘘であることは子供でも分る。私は相手を睨みつけ、返した。

「何のことだか分りかねる」

「知らない、と?」

「分りかねる、と申したのだ」

「…あくまで渡さぬと言うのであれば、仕方がないな」

その言葉で、取り囲んでいた男達が、一斉に斬りかかって来た。応戦するがじりじりと追い詰められ、とうとう背後が木に当たってしまった。

「もう一度問う。密書を渡せ!」

「分らぬものは答えられん!」

「っ…やれっ!」

怒号と共に襲い掛かられ、万事休す、と目を閉じた。その、刹那。襲い掛かってくるはずの刃が弾き返される音を聞き、そして、良く知った声が頭に響いた。

「ウチの可愛い忍びに手を出すのは、どこの無粋な輩ですかねぇ?」


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