戦国拍手ログ 2006年10月 さわさわと、秋の風が頬を撫でていく。 縁側で虫の声を楽しみながら、夕暮れの空を見上げていた。 「秋の空って…どうしてこんなに高いのかなぁ」 すると、隣で書物を広げていた三成様が呆れたように言った。 「空が高くなどなるはずがない。雲が高い位置にあるだけのことだ」 「うっ…そ、それはそうなんですけど」 相手の呆れ声に、ちょっと詰まった声を出してしまう。 「だって、こんな秋晴れの日の空って、何処までも突き抜けるみたいに広く感じませんか?」 それに、ほら。 そう言葉を続けながら、夕日に染まる西の空を見た。 「夕焼けの色も、ちょっと違うと思いませんか?こう、なんていうか、刻々と変わっていくっていうか」 私の言葉に、紙を捲る手を止めて、彼も空を見上げた。 「…女心と秋の空、か」 「…それを言うなら『男心と秋の空』じゃないんですか?」 元々の語源はそうだと、つい先日言われたばかりだが。それに三成様がそんな事を言うとは、なんだか珍しい気がする。訝しげにそう言うと、彼がこちらを見た。 「女心、と言うよりは」 そう言うと、彼は私の頬に触れた。ドキリ、と心音が跳ね上がる。 「『名無しさんの顔と秋の空』か?」 「はぁ?」 意味が分からず、我ながら間抜けな声を上げてしまった。 「くくっ…また変わったな」 楽しげに笑う彼を見て、私は目を白黒させていたに違いない。 「いつ見ても、同じ表情ではない、と言う事だ」 だから名無しさんといるのは飽きないな、そう綺麗な笑顔で言うと、三成様は私の頭をぽん、と一撫でして部屋へ入ってしまった。 「やっぱり、男心と秋の空、だわ」 撫でられた辺りに手を置いて、私は思わずそう呟いた。 きっと夕日と同じ色をしていた私の頬を、秋の風が心地よく撫でていった。 [*前へ][次へ#] |