戦国拍手ログ
2006年4月
「お花見って言えば団子よね」
楽しそうに言う名無しさんに、孫市はこう返す。
「花見と言えば、花に負けない美しい女性と、極上の酒だろ」
すると彼女はこう言った。
「あら、美女なら私がいるじゃない!」
ケラケラ笑いながら桜を見るその姿は、孫市の求める淑やかな美女とは程遠い。
――そう、かつての自分であるなら。
「…どうしたの?神妙そうな顔して。あ、もしかして今やっと私の美貌に気付いたの?」
勿論彼女はそんなこと本気で言っているわけではない。冗談でなければ、からかうような笑顔で言える台詞ではない。
「…あぁ。君の美しさは、この桜も嫉妬してしまうくらいだぜ」
だが孫市は、いたって真面目な表情で、名無しさんの右手を包み込むように取るとそう言った。
「…ど、どうしたの?急に」
孫市の突然の行動に、彼女の頬が薄く染まる。
「眩しい笑顔も、団子を頬張る可愛らしい口も、全て俺もモノにしたい」
真剣な表情でそういうと、手の甲に口付けを一つ落とす。名無しさんの頬はみるみる色を濃くしていった。
「…なーんてな」
そんな彼女をみて、孫市は耐え切れないというようにふきだすと、団子を一本手に取る。
「か、からかったのね!」
「いや?可愛い名無しさんの顔が見たくなっただけさ」
「…!もぅ、びっくりしちゃったじゃないの」
「だが満更じゃなさそうだったが?」
「そんなことありませんよ〜だ。どうせ似たような事他でも言ってるんでしょ」
そう言うと彼女は頭上の桜を見た。
「こっちは冗談抜きでキレイだね」
「…あぁ、だな」
――いつも明るいその笑顔も。刻々と変わるその表情も。
全てを護りたいと、そう思えるようになったのはいつからか。気付けば名無しさんの存在が、なくてはならないモノになっていた。
これからも、ずっと。隣で季節を愛でられる存在でありたいと、孫市はそう願い、名無しさんの手をそっと握った。
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