戦国拍手ログ 2007年6月 「勝負!」 腕を捲くり、手には木刀を握った、名も知らぬ女。 「またですかい?」 左近は半ば呆れたようにそう言うと、己も木刀を握った。 ******* 最初は、酒場で意気投合した。街を食い物にしようとしていた悪党相手に、二人で大立ち回りしたのだ。 「ありがとさん、旦那。これはおごりや、遠慮なく」 そういうと、彼女は徳利を差し出し、左近の目の前に、どん、と置いた。 「でや」 そして、左近の目の前に置いた徳利を抱きこむように、彼女がぐいっ、と顔を突き出す。 「悪いんやけど、これ飲んだら、ウチと手合わせしてくれへんか?」 「手合わせねぇ…」 左近は顎に手を掛けながら、ほんの少し間を置いて、徳利と彼女を見ながら頷いた。 「かまいませんよ、その上物の酒、お嬢さんのお酌付きならね」 そう、その時は軽い気持ちだったのだ。徳利の酒は上物だったし、それを抱き込む、その女にも興味があった、それだけのこと。 ******* …やれやれ、これで何回目だ?そろそろ離してもらわないと、殿に大目玉食らっちまう。 内心、そんなことを考えていたからだろうか。 「兄さん、隙ありや!」 初めて、握っていた木刀を弾かれた。左近は手に痺れるような感覚を覚え、苦笑する。 …ま、俺にはかなわないまでも、この女、かなり良い。 「…なぁ。飽きたんは分かるけど、手ぇ抜いたやろ?」 「そうじゃあ、ない。そうだな…」 左近はそういうと、木刀を拾い上げ、その先を彼女へ突きつけた。 「どうせなら、賭けをしませんか?お嬢さん」 「賭けぇ?」 「そう。それも普通の賭けじゃ面白くないな…お嬢さんは、何か欲しいものは?」 左近にそう言われ、欲しいものなぁ…、と考えると、彼女は挑みかかるようにこう言った。 「強いヤツの元で働きたい。稼いで、家族を養うんや」 そういって、ニヤリ、と笑う彼女の瞳はとても挑戦的で、左近は首筋がピリピリする感触を覚える。 「ほぉ…なら、この俺から二本取れたら、その望み、この左近が叶えよう」 「…左近?」 「だが俺が、お嬢さん、アンタから五本取れたら、俺の望みを叶えてもらおうか」 「…なんなりと。ウチの望みと引き換えや」 「なら…」 左近はすぅ、と無駄のない動きでかまえた。女も流れるように動き、左近に対峙する。先程までと比べ物にならない気迫に、左近はゾクゾクとした気配を背中に感じだ。 …やはり、先程までは本気ではなかったか。 「五本で、アンタを頂く」 「なんや、身体目当てか?ほなウチみたいなんやなくても」 「アンタじゃなきゃダメなんですよ。ま、手始めは、二本取れたら名前をもらうとしますか」 「…ま、ええわ。その賭け、乗った!ウチは二本、兄さんは五本、三本の差に後で泣くなや?」 「悪いが俺は戦も博打も強いぜ?勝つのは俺って決まってるんでね。いざ、勝負!」 その後、勝負の行方がどうなったのかは、二人のみが知る。ただ、左近の横にはいつの頃からか、一人の女武者が付くようになっていたらしい。 [*前へ][次へ#] |