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戦国拍手ログ
2006年12月


きっと、酔っ払っていたのだと思ったけど。

「…別に、酔いに任せてというわけではないぞ」

そう言われたらこちらとしても返す言葉もない。

お館様に勧められて断れなったのだろう、彼は赤い顔で歩いていた。そういう私も、赤い顔で良い気分。すっかり冬の顔になってしまった冷たい月明かりの下でも、歌でも歌いたいぐらいの勢いだった。

「名無しさん、あまりはしゃぐなよ…こけるぞ」

「大丈夫ですよ〜だ。それに危なくなったら助けてくれるでしょう?」

白い息を吐きながらそういうと、足取りも軽く駆け出した…はずだったのだが。

「…ひゃっ!」

「危ない!」

小さな石に躓いて、こけそうになった。寸でのところで幸村の腕が伸びてきて、そのまま彼の胸の中へ飛び込む。あまりの暖かさに、無意識に擦り寄っていた。

「…幸村、ちょっと腕緩めて」

ぎゅっ、と力を込められて、少し苦しくなる。もぞもぞと胸から顔だけ出して彼を見上げたら、意外と近くで目が合って驚いた。そのまま見ていたら、ゆっくりと顔が降ってくる。彼の瞳に吸い寄せられるように見つめていたら、唇に何かが当たった。

初めての口付けは、今まで知らなかったことをたくさん教えてくれた。

彼の唇が、こんなに柔らかかったなんて。
たったこれだけのことなのに、心がこんなにも震えるなんて。

きっと素面じゃないからこんな場所でもこんなことをしてくれているんだ、そうぼんやりと、まだ冷静だった(今思えば事態についていけていなかっただけだったのだが)思考の何処かが告げていたのだけれど、彼のさっきの一言で、そんな考えも一気に吹き飛んだ。

「酔いに任せてこんなことはしないが…名無しさん。今、そう思っていただろう?」

あぁこの人、いつもどうして先回りするの?いつも言いたい事を汲んでくれるのは嬉しいけど、この、全てを把握されている感はなんだか面白くない。

だから。

さきほどの行為で一番の驚きだったことをそっと耳元で告げてみた。そうしたら、みるみる幸村の顔が赤くなって。

「あー…一応、私も男なんだが…分かっているのか?」

そんな事を言われて、身動きができないぐらいに抱き締められた。彼があんな顔するなんて思ってもみなかった。今日は初めて知る事だらけ。でもどれもこれも泣きたくなる程幸せな気持ちにさせてくれる。

――口付けがこんなに気持ち良いことだなんて、知らなかった。きっと貴方だからね。

これが彼に囁いた、初めて知った一番の驚きで、一番の幸せ。



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