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KYO拍手ログ
2006年クリスマス・その2


街は外国のイベントで浮かれていた。そんな中、ほたるはさして興味もなく、街を歩いていた。

いつもの帰り道を歩く。繁華街を抜け、歓楽街に入った。だが、どこもかしこも人通りが多くてうんざりしてしまい、ほたるは普段あまり使わない、抜け道に入った。

表の通りならいざ知らず、裏は流石に人通りも疎らだが、その分少しばかり物騒だと言えば物騒だった。季節柄、酔っ払いが迷い込んで喧嘩していたりもする。

ほたるは気にするでもなく歩いていたが、暫く行くと通りを塞ぐようにして酔っ払い同士が喧嘩していた。彼は見かけによらず喧嘩はかなり強いのだが、面倒になってその場に立ち止まった。

「何が楽しいんだろう」

街の喧騒に、ほたるがぼそりと呟く。壁にもたれて空を見るが、ネオンの灯りで星も見えない。気付かぬうちに溜息を零れていた。

ぼぅっとそこに立っていたが、いつしか酔っ払いの姿も消えていた。それでも何故かそこにいたい気分で、ほたるは夜空を見ていた。

その時、突然彼がもたれていた壁の一部が開いた。良く見ればそこが店の裏口だったのだが、まるで壁と一体になっているかのような造りになっていたので、分からなかったのだ。

「…よっ、と」

中からビールのケースを持って出てきたのは、サンタクロースの格好をした、一人の女だった。何となく見ていると、彼女もこちらに気付く。

「…わっ、びっくりした!…どうかしました?」

驚いた顔でほたるに話しかける女は、繁華街の裏路地にはまるで似合わない、澄んだ翡翠色の瞳の、少女のような面立ちの女だった。髪は金色で、彼女の白い肌に良く映える。

「…別に」

ほたるが一言そういうと、女はそうですか、と言い、にっこりと笑った。

…天使だ。

心のどこかでそう思った。こんな場所にそんなものがいるはずもないのだが、ほたるはその時そう感じた。

「あ、そうだ!」

女はごそごそとポケットに手を突っ込んで、何やら小さな包みを取り出した。

「本当は店のお客さんにプレゼントしてるんですけど、ホステスさん達が私にもくれたんです。これは、おすそ分け」

そう言って、ほたるの手にそれを乗せた。どうやらクッキーのようだ。

奥から別の女の声がした。どうやら彼女の名前を呼んでいるようだ。返事を返すと、目の前の女がもう一度ほたるを見た。

「メリークリスマス!」

そして、きっとこの奥にいるどんな女にも真似できないであろう極上の笑みを一つ零し、彼女は壁の内側へと消えてしまった。

どこか殺伐としていた心に、ほたるは温かなものが流れ込んできたのを感じた。

「ゆや、ね」

顔も知らぬ女が呼んだ、天使の名を口にして、ほたるは家路についた。手にした小さな包みから、天使のぬくもりを感じながら。



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