KYO拍手ログ
2006年クリスマス・その1
「…さむ…」
今日はクリスマス。街は幸せそうなカップルや家族連れで溢れかえっている。ゆやはそんな街中でケーキを売っていた。25日の最後の駆け込み売りだ。
…ふぅ、人を羨ましがっても仕方ないわね。
彼女はバイトで生計を立てていた。学生の身だったが既に家族もなく、いわゆる天涯孤独というやつだった。遺産があったのでそれほど生活に困っているわけではなかったが、なるべく自分で稼いで、遺産はいざという時の為に残しておきたかったのだ。
「さ、もう少し、頑張るか」
時計を見ると、終了まであと30分。ゆやは売り子として、元気よく通りの人達に声をかけていった。
*******
「お疲れ様でした、お先に失礼しまーす」
バイトも終わり、ゆやは他の者に挨拶をして店を出た。
「…あ、雪!」
ひらひらと舞い降りる白い雪が、ゆやの手に落ちてくる。思わず口元に笑みを浮かべた、その時に。
「何ニヤけてんだよ」
聞き覚えのある声が耳に入った。
「…狂!」
振り返ると、長身で黒髪の、赤い瞳の男がいた。
「びっくりした…どうしたの?」
「どうしたの、じゃねぇだろ」
狂はぶっきら棒にそう言うと、小さな箱をゆやに投げて寄越す。ゆやはワケが分からずに、それでもとりあえず開けてみた。
「これ…!」
「欲しかったんだろ」
「覚えててくれたの?」
そういえば、この前そんなことをチラリと言った記憶があるが、そんな些細な事を覚えていてくれたとは。
「ありがとう!」
ふわりと微笑んだゆやを見て、狂も柔らかく笑みを浮かべる。
「…じゃ、行くぞ」
「…行くって?」
「俺の家に決まってんだろ」
「えっ?」
「まさか、それの返しも渡さないつもりか?」
「そ、そうじゃないけど…用意してないから…」
「心配すんな。身体で返してもらえればいい」
「…えぇぇぇっ〜〜!!!!!」
二人の幸せな時間は、これからだ。
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