KYO拍手ログ
2006年5月
手にした物を少し見やると、アキラは障子の向こうから感じる柔らかな気配に声をかけた。
「…ゆやさん、ちょっといいですか?」
「…あ、アキラさん?どうぞ」
すっ、と障子を開けると、ゆやはどうやら繕い物をしていた様子で、着物や裁縫道具を脇へ除けていた。
「あぁ、すみません。忙しかったですか?」
アキラがすまなさそうにそういうと、ゆやはブンブンと手を振った。
「いえ、全然!それよりアキラさん、どうしたんですか?」
「あぁ、実はこれを貰いましてね。でも私一人じゃ食べきれないので…」
そういうと、ゆやに持っていた物を見せる。
「何ですか?…わぁ、お団子!」
アキラが手にしていたものは、餡がのった団子だった。キラキラと瞳を輝かせているゆやに、笑みを浮かべながら彼は切り出した。
「一休みついでに、如何ですか?」
「そうですね。じゃあ、お茶淹れてきます!」
そういってゆやはパタパタと部屋を出て行く。暫くして戻ってきた彼女とアキラは、他愛もない会話をしながら穏やかな昼下がりを楽しんでいた。その時。
「ねぇ」
断りもなく、ほたるがゆやの部屋の障子を開けた。
「なんですか、ほたる。ゆやさんに失礼でしょう?」
ほたるのそんな行動を、アキラが諌める。
「ほたるさん、なんですか?」
ゆやはアキラに笑顔で、いつもの事だから大丈夫だと、と告げると、ほたるに向き直った。
「うん…何してんの?」
「何って…見てわかりませんか?ゆやさんは私と二人でお茶を楽しんでいるんです」
アキラは殊更『二人で』の部分を強調すると、だからさっさと用件をすませて何処かへ行け、と言わんばかりに嫌そうな顔をした。だがそんなアキラに構うことなく、ほたるはゆやの部屋へ上がり込む。
「何か用事でも?」
「…なんだっけ?」
ゆやが再び訊ねるが、ほたるはチラリ、と団子とお茶に目をやると、ヤル気なさげにそう呟いた。
「…用事がないならさっさと出て行きなさい、ほたる」
アキラは面白くない、と言った表情でほたるを睨む。
「美味しそうだね」
再びアキラを無視したほたるは、団子を見てそう言った。
「アキラさんが頂いたそうなんです。ほたるさんも一本どうですか?」
ニコニコ笑顔でそういうゆやを、ほたるはじっと見つめた。そしておもむろにゆやに手を伸ばす。
「…あ、あのほたるさん?」
「ほたる!何してんですか!?」
戸惑うゆやと怒鳴るアキラを尻目に、ほたるは延ばした手を彼女の顎にかけ、自分の方へ引き寄せる。そしてゆやの桜色の頬をペロリ、と舐めた。
「…甘い。ごちそーさま」
そいういと、固まってしまったゆやとアキラを残し、ほたるは少し楽しげに彼女の部屋を後にした。
その後、キレたアキラといつも通りのほたるが『死合い』という名の壮絶な喧嘩をした事は、言うまでもない。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!