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KYO拍手ログ
2006年3月

静かに閨から抜け出したゆやは、明るい日差しが射す障子に手を掛け、そっと開いた。

キラキラと光が溢れ出る。

少し肌寒い外気が、起き抜けの身体から閨の温もりを奪っていった。それでも日差しからは、春の匂いがする。ぐぐっと一つ伸びをしたゆやは、まだ冬と春の境目にある太陽の光を浴びて眩しそうに空を仰いだ。

「何してんだ」

そんな彼女を見て、狂は少し眠そうな声でそう言った。彼女が隣から抜け出したことで、目が覚めたのだ。

「ごめん、起こしちゃった?」

「抱き枕が動けば起きるに決まってるだろ」

「誰が抱き枕よ!」

からかうような狂の言葉に、ゆやは赤面しながらも言い返した。閨を共にするようになっても、二人の関係は表面上はあまり変わっていないようだ。

「で、何してる」

狂は欠伸を漏らしながら先程の質問を繰り返した。

「ん?別に何ってほどじゃないけど…もう直ぐ春だなぁ、って」

そういうとゆやは目前の庭に目を移した。庭木の枝には春の芽吹きを待つ蕾が膨らんでいる。ゆやの金の髪が、日差しに揺れて光り輝いた。

「…でもまだちょっと、寒いね」

そういうと、ゆやは少し身震いした。そして静かに障子を閉める。

「…ったく」

狂は呆れたように呟くと、ゆやの側まで行き、背後から彼女を抱き締めた。

「…!?き、狂?」

「まだ春じゃねぇ、そんな格好で肌寒いのは当たり前だ」

「わ、判ってるわよ!今から着替えようと思ってたんだから離してっ!」

「俺はまだ寝足りねぇ」

「…じゃあもう一回寝たらいいじゃない」

「そうだな」

そういうと、狂はもう一度閨に入った――その腕にゆやを抱きかかえたまま。

「…って!なんでこうなるのよっ!!」

「抱き枕がギャーギャー喚くな」

「だっ、誰が…っ!」

柔らかな温もりを前にして、鬼眼は少し早い『春眠暁を覚えず』を実行するのであった。



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あきゅろす。
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