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KYO拍手ログ
2007年お正月

背後から回された腕の中で、ゆやはもぞもぞと動き出す。

「…まだ夜も明けてねぇぞ」

腕の主がまだ眠気を含んだ声でそう言った。

昨晩は遅くまで鈍ちゃん騒ぎが繰り広げられていたのだが、流石に皆疲れたのか(何せ日が暮れる前から騒いでいたのだから)、奥の座敷で雑魚寝していた。ゆやと狂は、自分達の寝室で休んでいたのだ。

「…ん…でも、もうそろそろじゃない?夜明け」

ゆやは既に目が覚めているのか、割合はっきりとした声で返事をする。

「夜が明けたからって何もないだろ」

狂はそう言うと、腕の中のゆやを抱き直してもう一度眠りにつこうとしていた。

「いいよ、狂は寝てて」

だが、ゆやは狂の腕からするり、と抜け出すと、布団の中からも出た。とたんに隙間に冷気が忍び込み、狂は僅かに眉を顰める。

「…なんだ?」

溜息一つついでに零し、狂は今まで抱いていた温もりに訊ねた。暗がりの中、ゆやが振り向いたのが分かる。

「ほら、初日の出見ようと思って」

「…」

屈託なくそういう彼女に、狂は呆れたように言う。

「…わざわざそんなもんの為に、起き出したってのか?」

「そんなものとは何よ!別に狂は起きてこなくてもいいって言ったでしょ」

狂に言われ、ゆやはぷぅ、っと頬を膨らませて返した。

「…何処で見るつもりだ」

「何処って…外だけど」

「バカか、風邪引くぞ、今から待ってたら」

「あ、厚着していくもん!」

ゆやはそう言うと、頬を膨らませたまま隣の部屋へ着替えに行ってしまった。

暫く気配がしていたが、どうやら外に出たらしい。狂は溜息を吐くと、己も着替えて外に出た。

まだ日が上がっていないため、外は当然暗かったが、薄ぼんやりとは明るくなってきていたのでゆやの姿は直ぐに分かった。厚着しているとはいえ、やはり寒いのだろう。

「…ったく、なんで寒い思いして待ってるんだ?」

後ろから狂が声を掛けるも、ゆやは振り向かずに立ったまま。

「…だって。初日の出を拝みながら願い事をすれば叶うっていうじゃない」

ゆやはそう言うと、きゅ、っと口を結んだ。

彼女の事だ。願い事といっても、多分、己自身の事ではないのだろう。きっと自分の事に違いない。これは自惚れでもなんでもなく、ゆやの性質を考えれば至極全うな答えだと思う。

狂は暫く彼女の後ろ姿をみていたが、ゆっくりと近づくと、彼女の身体に腕を回した。

「え、きょ、狂!?」

瞬間的に赤く顔を染め上げ、ゆやはあたふたとする。

「…俺が寒いんだ、じっとしてろよ、抱き懐炉」

「な、なんなのよその、抱き懐炉って!」

「うるせぇ。下僕から昇格してんだ、文句いうな。そんな暴れると見逃すぞ」

「えっ」

狂に言われて正面を見たゆやは、ゆっくりと昇り始めた太陽と出会った。

「…キレイね」

誰ともなしにそう呟くゆやに、狂は腕に力を込めて返す。

「…願い事、ちゃんとしとけよ」

「うん」

ゆやの手が、そっと狂の手に触れる。

「…今年も宜しくね、狂」

「…あぁ」

二人を照らす朝日は、まるで互いを思い合う心のように、眩い光で空を満たしていた。


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