KYO捧げ物
華鏡〜心を映すもの〜3
「…夢、か…?」
はっ、と気付いた狂は、頭上を見た。日が傾いた空は、夕暮れの色を帯びている。そして桜はヒラヒラと、静かに花弁を降らせていた。
「…狂…?」
狂は片方の膝に乗せた重みが、ゆっくりと離れたのを感じた。
「…ごめん、ムチャな事して迷惑かけちゃって…」
見ると、まだふらつくのか額に手を当てたゆやが、少し苦しそうな表情でこちらを見ている。ほんの少し彼女を見ていた狂は、ほっ、と息を吐いた。
「…もう少し寝てろ」
狂は彼女の腕を取ると、自分の胸にゆやを引き込む。
「ひゃ!…き、狂?」
「…駄々をこねたりこれぐらいの事で真っ赤になったり、やっぱりガキだな」
「うっ…ど、どうせガキよ!」
狂の胸に手をついて離れようとしたゆやを、彼は逆に抱き締めた。
「…だが、こんなガキに捕まったのは誰だ?」
「…あの、狂?」
「コイツは誰にも渡さねぇ、コイツは俺のモノだ」
「狂、苦しい…」
モゾモゾと腕の中で動くゆやの髪に、狂は一つ口付けを落とした。
「…!」
「お前は俺を信じていればいい。何があっても俺はお前を裏切らない。それだけは覚えておけ」
「…うん、分かってる」
ゆやは狂の言葉に一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑みを湛えた顔で、彼の言葉に応えた。その表情は、いつもと変わらぬ、温かな日差しのような微笑だった。
「分かってるなら、もう少し休んどけ。ご主人様の命令だ」
「ふふふ…じゃあ、お言葉に甘えて」
暫くして寝息を立て始めたゆやを、狂は抱き上げて空を仰ぐ。
頭上には紺色の空と、白い月と、そして桜が広がっていた。
「この先何がきても、コイツだけは譲らない。身体も、心も、な」
そしてゆっくりと腕に温もりを抱いたまま、狂は家路を辿っていった。
――悔しくないの?悔しいでしょ?
…いいえ、ちっとも。だってこんなに心が温かいんだもの!
ゆやの着物の裾から、淡い色の花弁が一枚、ひらりと舞い落ちていった。
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