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KYO捧げ物
華鏡〜心を映すもの〜1

温かな陽気と青空と。そして頭上には満開の桜が揺れている。

「本当に、キレイ!」

そう楽しげにいうと、ゆやは手元にあった花見団子を一本手に取った。

「てめぇは花より団子だろ」

隣で酒をあおっていた狂は、そんなゆやを見て鼻で笑うように言う。

「う…ウルサイわね!!」

半分はそんな気分も混じっていたので、ゆやも強くは言えず、団子を口に頬張りながら空を仰いだ。

――深緑の瞳が、空の蒼と桜の薄桃色に染まる。

「…満開だね」

ぽつりとゆやが呟いた。

「…そりゃそうだろ。そういう季節だ」

「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃない。それにさっきから飲んでばっかり!ちょっとは桜を楽しもうっていう気はないの?」

「チンクシャがどうしても一緒に行きたいとせがむから仕方なくきてやったんだ。だから別に花を見る義理はねぇ」

「そんなこと言ってないじゃない!」

「口ではな。でもいかにも『一緒に行って下さい』って顔してただろ」

からかうようにそう言うと、狂は杯を傾けた。

「そ、そんな顔してないわよ!」

ゆやは頬を染めて抗議の声を上げるが、狂は気にせず酒を飲む。

「ほんっと、アンタってそればっかりよね!…こんなんだったら、アキラさんでも誘えば良かったわ」

そのゆやの呟きに、少しだけ不機嫌な表情になった狂は、杯を空けるとこう言った。

「…たまには下僕の頼みも聞いてやろうとわざわざ来てやったが、これなら遊郭にでも行って女侍らせてる方がよっぽどマシだったな」

「…どういう意味よ?」

「そのままだ。チンクシャみてぇなガキ相手じゃ、酒以外に楽しめねぇだろ」

そして杯に酒を注ぐ。だが、ふと違和感を感じた。いつもなら食って掛かって来るゆやが、何も言ってこないのだ。訝しげに狂は彼女を見た。

…いつも、いつも、そう。

からかうように戯れで触れられる事はあっても、いつも肝心な時はこうなのだ。いつも狂にはぐらかされる。

ならばどうして欲しいのか、そう問われるとゆや自身もよく分からないのだが、それでも一人の人間として見て欲しいと思うのは、欲張りな話なのだろうか。一人の――女として見てくれずとも。

ふいにぼやけた視界から、涙が零れ落ちないように、ゆやは唇を噛み締めて空を見た。桜がゆらゆら揺れて、花弁を散らせる。

――悔しくないの?悔しいでしょ?

誰かの声が心に響く。

…悔しいわ。悔しいの。もっと私を見て欲しいのよ!

ゆやは一つ瞬きすると、キッ、と狂に視線を戻した。ゆやを見ていた狂は、突然自分に視線が戻り、少し戸惑う。

「…なんだ?」

「私、ガキじゃないわ。チンクシャでもない」

「…花見酒に付き合えないようじゃ、まだまだガキだな」

「…お酒ぐらい飲めるわよ!!」

そう叫ぶと、ゆやは狂のそばにあった徳利に手をかける。そして中身を煽った。

「…!おい、チンクシャ!」

狂の静止の声も聞かず、焼け付くような液体を喉に入れたところで、ゆやの視界はプツリと暗転した。



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