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KYO捧げ物
遠く、近くに5

そう言ってゆったり微笑む彼女の笑顔は、どこまでも澄んでいた。壬生との闘いの折に、狂が自分を見失わなかったのは、彼女のおかげだと聞いているが、この微笑を見れば解るような気がする。彼女は彼が一番欲しかったものを、いとも簡単に与える事ができる、唯一の存在なのだろう。だから彼はこの世界に戻り、そして彼女がいるこの場所を、自分の『居場所』としたのだ。もし、彼女が死んでいたら、きっと彼はここにいなかっただろう。

「…相変わらず、根拠のない言葉と自信だな。僕には理解できないよ」

「ふふふ、時人さんだって、同じだと思いますけど?」

「僕はお前のようにはなれない」

「時人さんは今のままでいいんですよ。だから、アキラさんも同行を許しているんでしょうし」

「ア、アキラは関係ないだろう!」

時人の怒鳴る声に、はいはい、と笑って返すと、ゆやは冷めてしまった茶を淹れなおそうと立ち上がる。

「そうそう、最近ね、壬生の皆さんも時々くるんですよ?あとは九度山の幸村さん、仙台の梵天丸さんとか。あ、そういえば、梵天丸さんが、一度仙台にも遊びにこいって時人さんに伝えてほしいって」

「なんで僕があの獣に会いに行かなくちゃならないだよ」

そういいながらも嬉しそうな時人に楽しげに笑うと、ゆやが言った。

「時人さん、すみませんが狂とアキラさんの様子を見てきてくれませんか?せっかく休んでるのに、狂が邪魔しているかもしれませんので」

「まったく…人のことをガキ扱いしているくせに、アイツが一番ガキだよな」

「そうですね」

二人で小さく笑い合うと、時人がいそいそと奥へと上がりこむ。その姿を微笑ましげに見た後、ゆやは少しだけ残っていた食べかけのプリンを口にする。

「今日の夕飯は賑やかになるかな…時人さんの好きな物でも作ろうかしら」

そう一人呟くと、ゆやは少し早かったが店を閉める。そして愛する人達の顔を浮かべながら、いつものように台所に立ったのだった。



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あきゅろす。
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