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2008年冬至
バスルームの扉を開けると、ふわん、と柑橘系の香りが漂ってきた。

「どんだけ浮かべてるんだよ」

そう呟きながら苦笑すると、撩は身体を洗い、湯船に身体を沈める。湯にプカプカと浮かんでいる黄色くて丸い物が零れ落ちないように慎重に浸かれば、プカプカと漂って撩の周りを取り囲んだ。

今日は冬至だ。湯船に浮かんでいたのは、柚子である。香が昼間CAT’Sでもらってきたのだと言っていたが、湯船一面に広がったそれをみて、撩は苦笑した。

年に一度、こんな風呂に入るようになって、もう何年経つのだろう。日本に来たばかりの頃は、荒れた生活でこんなことしたこともなかった。したいとも思わなかったし、正直どうでも良かったのだ。香と生活を始めたばかりの頃も、彼女の好きにはさせていたが、なければないで良かったし、なかったところで差し障りなどこれっぽっちもなかった。

だが。年月を重ね、香が手放せない存在になってから、それが少しずつ変わっていった。正月に始まって、花見だの月見だの、季節ごとのそういった行事を一年一年繰り返していくことで、彼女と時間を重ねている実感が湧いていた。日々の何気ない時を、無事に過ごせていることに気付かされた。これは撩にとっても、新鮮な変化だった。

「しっかしまぁ、全部浮かべなくてもいいのになぁ」

プカプカと浮かぶ柚子を一つ手に取り、軽く放り投げる。そして手に戻ってきた柚子を鼻先に持って来ると、ふんわりと香っていた柚子の香りが、より強く爽やかに鼻腔を刺激した。手にした柚子を湯船に戻せば、その手に香りが移っている。

「今日はせっかくの冬至だしぃ〜」

撩はそう歌うように呟くと、ざばっ、と音を立てて湯船から立ち上がった。漂っていた柚子が忙しなく波打つ湯面に揺られる。

「柚子の良い匂いのカオリンを〜、これまた同じ良い匂いの撩ちゃんが〜、じーっくり温めてあげまっしょう!」

フンフン、と鼻歌交じりに立ち去ったバスルームは、相変わらず柚子の香りに包まれていた。

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