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2008年ハロウィン
「ハロウィンなんてやったことないんですけど…」

苦笑しながらも、広い衣裳部屋を楽しげに見て回る相手に、絵梨子は笑った。

「あら、じゃあ今日は飛び切りの仮装をして、目一杯楽しんでちょうだいね」

とても楽しげに笑った彼女に、親友である香が渋い顔で言う。

「ちょっと絵梨子。あんまり無理強いしちゃダメだからね?」

そういう彼女はすでに絵梨子がデザインした衣装を押し付けられており、今はメイクの真っ最中だった。何やらかつらまで用意されており、本格的な仮装をするようだ。経験上、香は絵梨子が押し付けた衣装からは逃れられないと知っていたことと、完全に本人だとわからないような仮装になる様子に、諦めてされるがままに鏡の前に座っていた。

「遅くなってすみません!」

そこへ、金の髪を揺らしながら、一人の少女が入ってきた。

「あら、ゆやちゃん。大丈夫よ、まだ皆準備中だから」

息を切らせて部屋に入った彼女に、絵梨子がにっこり笑って言った。その横で、絵梨子に選んでもらった衣装を手にした人がゆやを呼ぶ。

「ゆやちゃん、珍しいじゃない。遅れるなんて」

言われたゆやは苦笑気味に二人の傍へと歩み寄った。

「狂が…なかなか動かなくって」

「あら、ウチと同じね」

それを聞いていた香が鏡越しにゆやに声をかけた。

「香さんの所もですか?撩さん、こういうの好きかと思ってましたけど…」

「ま、綺麗な女性がいる場所は嫌いじゃないけどね」

「冴羽さんは仮装が面倒なんでしょ」

絵梨子がゆやの衣装を見立てながらそう言った。香は内心、撩は絵梨子が苦手なのだと思いつつ、苦笑気味に頷いた。

「さて…ゆやちゃんはこれがいいわ!ぴったりよ」

「これ…ですか?」

「えぇ、貴女のイメージに合うわ。さ、二人は向こうで用意してね。香、仕上げは私が見るからね!」

「はいはい、絵梨子の好きにしてちょうだい」

ヒラヒラと手を振る香に、あとの二人は笑顔で奥の部屋へ消えていった。


〜黒猫とワーウルフ〜

「まったくぅ〜、絵梨子さん、何考えてんだよ」

撩はブツブツと呟きながらフロアを見回した。香と二人で呼び出され、気付けば彼女主催のハロウィンパーティーに参加させられていた。香とは玄関で別れ、それぞれ仮装させられる事となったのだが、撩はなんでも、ワーウルフ…要するに、狼男なのだそうだ。

「冴羽さんにぴったりでしょ?」

クスクスと笑う絵梨子に、苦虫を噛み潰したような顔を返してやったが、そんなことで怯む彼女ではない。結局そのまま仮装させられ、撩は仕方なく会場で香を待っていた。

狼男といっても、特殊メイクをしているわけではない。耳と尻尾、手にも毛皮のグローブは填めているが、特にそれ以上何かが取り付けられているわけでもない。服装も、それなりに毛皮のような素材は使っているが、シンプルなデザインだった。上に羽織れるマントのようなものも、最低限の武器を隠すにはちょうどよい。絵梨子が気を利かせてそうしてくれたのかもしれないなぁ、などと思いつつ、撩は何気なくフロアに目をやった。

そこにいたのは、黒猫だった。黒いストレートヘアを腰まで伸ばし、黒く触り心地のよさそうな耳を付けた長身の女が、周りの男の視線も気にせず、ツカツカと撩に歩み寄る。エキゾチックなメイクと仮面の下から覗く瞳が印象的だ。

「撩、お待たせ」

黒猫がそう言うと、撩はふぅ、と息を吐き出した。

「馬子にも…って、冗談だよっ!」

見慣れたハンマーが相手の手に召喚されたところで、撩は慌てて手を振り謝った。

「ま、あたしもそれは思ってるんだけど」

その黒猫の声は、間違いなく香だ。衣装は黒のシンプルなタートルネックかと思いきや、背中は大胆に開いていた。スカートは撩の衣装にも使われている生地を取り入れ、その他数種の布地を何枚か重ね合わせたようなデザインだ。どうやらスリットでもはいっているのか、歩くたびに白い足が覗く。もちろん、尻尾もついていた。

「ふぅん。まーた香がモデルの衣装作ったのか」

「恥ずかしいからって言ったんだけど…」

ため息を吐いた彼女は、なんだか別人のようだった。だが、見上げてくる瞳はたしかに香で、撩はそのアンバランスな感覚にクラリときた。

「ねぇ…もう帰らない?」

香が上目遣いで言うが、撩は耳を貸さずに香を引き寄せる。

「香…Trick or Treat.」

「えっ?」

首を傾げた彼女に、クスクス笑うと、撩は彼女の耳元にキスをした。途端に真っ赤になって抗議の声を上げる彼女を無視し、紅く染まった耳たぶを齧る。香を見ていた周りの男たちを牽制する意味も込めたつもりだったが、思いがけず零れた彼女の吐息にそれだけですまなくなってしまった。

「さて、可愛い黒猫ちゃん。大人しく俺に食われるか、狼男に悪戯されるかどっちがいい?」

「何よそれ!選択肢の設定がおかしいでしょっ」

「なんだ、猫ちゃんが狼を食いたいのか?でもそれはちょっと難しいなぁ」

「ちょ、違うでしょ!人の話を…」

「仕方がない、お互い食い合うって事で。ちょうどこの会場、ホテルの中だし〜」

「ちょちょ、撩、待て、待ちなさ〜いっっ!」

しなやなか黒猫の身体を抱き上げ会場を後にした狼は、その夜、一晩中その猫を啼かせ食べつくした。

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あきゅろす。
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