CITY HUNTER
side story2
その大きな背中は何も語らないが、それでいて雄弁だ。きっと、彼は全てを分かった上で香をここまで連れて来てくれたのだろう。撩は口元にほんの少し笑みを乗せると、視線を香に戻した。一粒だけ零れ落ちた涙の元は、未だに香の瞳を薄く覆っているが、零すまいと必死に押し留めて唇を噛んでいる彼女が愛おしいと、撩は思った。
「泣くなよ、生きてんだから」
「泣いてないわよ、どこ見てんの」
「まだ野望も達成してないのに、死ぬわけないだろ」
「何よ、野望って」
香の言葉に、撩は口端を上げて返す。
「世界一の美女ともっこりすること!それを堪能するまでは死ねん!」
ズタボロの姿で明るく言い放たれ、香は一瞬呆けた顔を見せ、そして苦笑した。
「あんたって…っていうか、撩、世界一じゃなくて、世界中じゃなかった?」
「あぁ…それはもういいんだ」
撩の言葉に、香は小さく溜息を吐いた。その美女が誰かは知らないが、撩にそこまで言わせるのだから、きっと香など足元にも及ばない女性なのだろう。
「あとさ」
香が諦めに似た気持ちに心が囚われそうになった時、おもむろに撩が口を開いた。
「な…に?」
ほんの少しだけ暗く沈みそうだった気持ちを持ち上げ、香は撩を促す様に視線を向けたが、彼の表情に思わず口ごもってしまった。それは、香が今まで見たことのない、撩の男としての顔だった。柔らかく見つめながら、どこか熱を帯びたその眼差しに、香は目を離すことができない。撩はそんな香を見上げながら、言葉を続けた。
「死ぬならおまぁの腹の上って決めてんの」
「は…はぁ?」
自分の腹の上で死ぬとは、どういう意味だろう。そんな風に小首を傾げた香に、撩は苦笑する。
「だから。さっき、世界一の美女ともっこりしてないのに死ねないって言っただろ」
「う、うん」
撩の言葉の真意を知りたくて、香は頷いた。どこか緊張感の漂うような雰囲気に、撩は内心で苦笑する。
「今、撩ちゃんの目の前にその美女がいるんだけど?」
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