CITY HUNTER
1
「たはは…ったく。どんだけいるってんだよ」
撩は苦笑すると崩れそうなコンクリートの壁にもたれ掛かり、ズルズルとしゃがみ込んだ。
大掛かりな密売組織の壊滅が今回の目的だったが、依頼の性質上、どうしても手加減している余裕もないため、今回、香は連れて来なかった。
――彼女の目の前で、人を殺してしまうかもしれないから。
死神と呼ばれたあの頃の自分なら、日本に密入国した当時なら、槇村とコンビを組んでいた、あの時なら。
撩はおそらく、誰の前であっても、必要とあれば人の命を奪う事に、躊躇いはなかった。だが、香とパートナーを組み、彼女の傍にいることに慣れてしまった今は。
例え相手が殺人鬼であろうと、香の目の前で人を殺める事だけは、避けたかった。
彼女には見せたくなかったのだ。闇に染まった瞳で、人の命の灯を弄ぶように消し去る自分の姿を。
「って言っても、これじゃ俺が死神に連れて行かれちまうな」
共に生きると誓ったが、今回はどうやら分が悪いらしい。相手方の武器を使ったりして何とかあと少しという所まで来たが、パイソンの残り弾はあと1発。そして自分の身体は満身創痍。どれもこれも致命傷ではないが、放っておけばいずれ流れ出た血に染まって死んでいく運命だ。
「チッ…冴子のヤツ、情報がいい加減すぎるっつーの」
憎まれ口を聞いてみるが、そんな事をしたところで、どうにもならない。撩は口の中に流れ込んできた血をプッ、と吐き出すと、乱暴に口元を手の甲で拭った。
「さぁて、休憩してても始まらねぇし、ここで死んでアイツ一人にするわけにもいかんしなぁ」
だが、この状況でどうやって活路を見出そうか。撩の暗い瞳から、光が消えていった。
――どうやって、皆殺しに、してやろうか。
そんなことを考えていたその時。撩の身体が慣れ親しんだ気配を感じ取った。思わず目を見開き、その気配の方へと身を乗り出す。
「りょーっ!」
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