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CITY HUNTER
1
…あぁ、俺が悪い。悪かったさ!

リビングのソファに寝そべりながら、撩は忌々しげに呟いた。

…だからって、もうちょっと自覚しろよな、アイツも!

そういうと、はぁーっと溜息を吐く。

裏社会bPの名を欲しいままにしている彼を悩ます存在など、只一つ。パートナーの香だ。

事あるごとに彼は彼女の事を『男女』だの『くびれたバストに豊満なウエスト』だのとからかっていたのだが、まさかこんな風にしっぺ返しを食らうとは思ってもみなかった。そう、こんな風に一人の女と男として悩むなんて…。

煩悶している撩の前を、香が横切った。

「…って、香!なんて格好してるんだよっ!!」

「はぁ?見りゃ分かるでしょ、Tシャツに短パン。あ、Tシャツ見当たらなかったから撩の借りちゃった。ごめんね?」

たしかに標準より身長の高い彼女だが、彼のTシャツだからはダブダブである。

…っていうか、短パンじゃない、ホットパンツっていうんだよ、それはっ!

ダブダブのTシャツの裾からチラチラと見え隠れしてはいるが、ぱっと見た目はTシャツ一枚の姿に見える。そこからすらりと伸びた足…。

思わずゴクリ、と唾を飲み込んでしまったが、幸い彼女は気付かなかったようだ。

「とりあえずあたしは今から洗濯物を干すんだけど、その後リビングの掃除もするからね!アンタの雑誌とか、ちゃんと片付けておきなさいよ?」

ジロリ、と睨みながらそう言うと、香は洗濯籠を抱えて歩いていった。

…ちょっと待て。その格好でするのか?

洗濯物を干すということは、当然外に出るということだ(たとえベランダだろうと屋上だろうと外は外だ)。ってことは、当然目の前のアパートに住む、あの堕天使の目に晒されることもありうるわけだ。というか、ヤツがこんな美味しい姿、見逃すワケがない。あわよくば写真に収め、かずえの目を盗んで等身大パネルなんて作りかねない。

…それだけはさせるかっ!!!!

撩は飛び起きると、香の後を追った。

「香っ」

「えっ、なな、何?」

突然飛びつくように洗濯物の入ったカゴを奪い取られ、香は目を白黒させていたが、撩が更に普段なら絶対言わないような事を言い出したので更に目を丸くして驚いた。

「せ、洗濯物干しなら俺がやる」

「…はぁ?」

「あー、ほら、最近の男はこれぐらいの家事もできなきゃモテないだろ。つーことで、予行演習だ」

「はぁ」

まったくもって訳の分らない理屈であるが、そこは香のいいところというか、なんというか。

「…まったく、何を言い出すかと思えば。ま、こんなことが出来たぐらいで、撩みたいなもっこり変態スケベがモテるようになるとは思えないけどね」

カオリン、それはいくら何でも言い過ぎでないの…。

「と、とにかくっ!おまぁはリビングの片付けでもしとけって」

そういうと、撩は香の背を押して、部屋の中へと追いやった。

「…ったく、もうちょっと恥じらいというものをだなぁ」

「なーにが恥じらいだよっ」

ブツブツと文句を言いながらカゴを置いたその時、通りを挟んだ反対側から声が飛んできた。どうやら間一髪だったようだ。そちらの方を見れば、もっとも危惧していた存在が、不機嫌さも露わに窓際に寄りかかってこちらを睨んでいた。

「なんだよミック。なんの用だ?」

「うるせぇ!爽やかな朝にお前の面なんざ見たくないんだよっ。だいたいどういう風の吹き回しだ?カオリはどうしたんだ!」

ギャンギャンと喚くかつての相棒に、撩はベェ、っと舌を出した。

「たまには相棒を労わってやろうと言う、撩ちゃんのやっさし〜い心遣いだよっ」

「嘘つけっ!お前がカオリにそんな気持ちを表すなんざ、あり得ないだろ!」

「んだとぅ!?」

通りを挟んだ小学生並みの言い争いは、当然香の耳にも届いていた。放っておけばいつまでも下らない言い争いは終わらないし、第一、ご近所迷惑である。これを麗香に見られれば、CAT’S EYEでネタにされることも想像に難くない。盛大なため息を吐くと、香は肩を怒らせベランダに出た。

「だいたいミック、お前なぁ」

「こら、撩!」

尚も何かを言い返そうとしていた撩の耳を掴んで、香が怒鳴った。

「ぅわっ、なんだよ香っ」

「あんたねぇ、洗濯物はどうしたのよ」

「Hi,カオ…リ!?」

「おはよう、ミック。貴方もこんなバカに一々かまわないでね」

「香、おまぁどっちの味方なんだよ!」

「どっちの味方でもありません。さっさと洗濯物を干してちょうだいね。ったく、珍しいこと言い出したかと思ったら、こうなるんだから」

香の呆れたような言い分に、撩がはっ、と気付いた。何のために洗濯物干しなどという、生活感の漂う主婦のようなことを、闇の世界のbPがやっていたのか…。

がばっ、とミックの方を見れば、今まさに写真を撮らんと、一眼レフのカメラを構えていた。もちろん、その対象は撩の前で腰に手を当て少し小首を傾げ、不思議そうな顔で撩を見つめている香である。

「なぁに?どうしたの?」

突然ミックの方を向いた撩に、香は驚いてそう聞いた。つられるように同じ方向を見ようとした矢先、撩にくるりと身体を返され、部屋に押し込められそうになった。

「え、ちょ、撩!」

「るさいっ、さっさと部屋に入れって!」

片手で抱きしめる様に肩を押され香は慌てて部屋に入る。撩の方はといえば、空いた方の手にパイソンを握り、ミックの一眼レフに照準を合わせていた。

「待て待て、リョウ!」

「…撮ったのか?」

通りを挟んだ場所からでも感じる殺気に、ミックはオーバー気味に肩をすくめて両手を挙げる。

「そんなヒマなかったさ」

「信じられねぇ」

「ちょ、待て、待てって!!メモリーカードならほら、そっちで確認してくれればいいからっ」

「そんな面倒なことしなくても、これでいいだろ」

撩はそういうが早いか、ミックがカメラから取り出したメモリーカードをパイソンで撃ち砕いた。

「あぁぁぁぁ〜!オレのスクープがぁぁぁ!!!!」

「フンッ」

「どうしてくれるんだよっ、リョウ!まだパソコンに落としてないんだぞっっ!!!!」

「知るか、お前の日頃の行いが悪いせいだろ」

「なんだとぉぉぉ」

「これにこりて香の隠し撮りなんて不毛なこと、止めるんだな。だいたい、香みたいな男女なんて撮って何がいいんだ…」

「ナニが不毛だっ、これはオレの楽しみの一つ…」

そこまで言って、二人の口がピタリと静かになった。そして感じる、それぞれの背後からの、禍々しいほどの殺気。

「あら、ミック。あれほど言ったのに、まだ隠し撮りなんてしていたのね」

「カ、カズエ…」

「誰が男女だって?」

「かかか、香しゃん…」

「「朝っぱらからご近所迷惑考えなさいっ!!!!」」

『『ドゴォォォォォンッ……!』』

――通りを挟んだ戦いは、それぞれのパートナーが放った巨大ハンマーの衝撃音で、幕を閉じたのだった。


あきゅろす。
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