CITY HUNTER
1
駅から出ると、駆け抜けていった爽やかな風に誘われるように、ミックは空を仰ぎ見た。温かい日差しに、ふと思い出した人を感じ、笑みを浮かべる。そして、なんとなく…本当になんとなく、彼女に逢えそうな気がしたので、いつも彼女がルーティンワークとして訪れるその場所へと足を運んでみた。そして目的の場所にいた彼女の後姿を見て、ゆっくりと頬を弛める。肩を落としてがっくりとしているその姿に、また依頼がなかったんだろうな、と苦笑すると、背後から近寄り肩を叩いた。
「Hi , カオリ。また依頼、なかったのかい?」
声を掛けた相手は、振り返るとほんの少しだけ声を詰まらせた。そして、声を掛けた方のミックも、目を見開く。
「あ…ミック。うん、そうなのよ」
「そっか…まぁ、そのうち依頼もくるさ」
たはは、と苦笑する香に、ミックも曖昧に笑った。そんなミックを見て、香はほんの少しだけ頬を赤くする。
「なんていうか…ミックもそんな服装、するのね」
いつもスーツとか、ビジネスマンみたいな恰好だから、ちょっとビックリしちゃった、と笑った香に、ミックも微笑んだ。
「ていうか…おれたち、なんだかよく似た服装だよね」
確かに香の言う通り、今日のミックは普段のスーツ姿ではない。黒いジャケットにブラックデニム、そしてジャケットの下はグリーンのVネックシャツという、普段からすれば随分とラフな格好だったのだ。髪型もいつものオールバックではなく、自然に流しているため、それだけでも随分と印象が違うかもしれない。
そしてミックの言う通り、香の方の服装もミックのコーディネートとよく似ていて、彼が黒いジャケットのところ彼女は白で、すらりと伸びた足はミックと同じブラックデニム、そしてシャツに至っては同じ色のこれまたVネックカットという、ペアルックと言っても差し支えないのではないかといういで立ちだった。
「ホントよね、だからちょっと、ビックリしちゃった」
香はそう言って、少しはにかんだ様に笑った。そんな姿を少し眩しく思い、ミックは目を眇めながら、口端を上げて彼女を見る。小首を傾げて微笑む姿は、とても愛らしいとミックは思った。
「おれもビックリしたよ。普段しないことも、たまにはしてみるもんだネ」
ミックがニッコリと香に笑顔を見せれば、香も楽しげにと笑いながら彼に尋ねた。
「もしかして、これからどこか出かけるの?」
「いや、今日はもう出かけてきたんだ。だからカオリ、これからどこかイイトコロ、行かない?」
そう言ってさりげなくミックが香の肩を抱けば、すかさず彼女が彼の手をつねる。
「イテテ…」
つねられた手の甲を大げさに摩るミックに、もぅ…と香が頬を膨らませた。
「ミックのイイトコロって、撩と同じでどうせろくでもない所でしょ」
まったく…と、じとり、と睨み上げる香にミックは降参だと言うように手を上げると、その姿を見て香は苦笑した。
「まぁ、そこへはおいおい行くとして」
「行かないわよ!」
「まぁまぁ。せっかくだから、ちょっと遠出しないかい?美味しいランチ、ごちそうするからさ」
ミックはめげずに次は背中に手を当てると、香を見下ろしてウィンクする。ランチ、と聞いて香の顔が綻んだ。
「へぇ、そこはミックのおすすめのお店なの?」
「あぁ、かずえとも行ったことあるんだけど、女性向けのヘルシーな所さ」
「かずえさんのお墨付きなんだ?いいわね」
乗り気になった香の背を、ミックは少し押す様にして歩き出した。
「じゃあ、善は急げだ…邪魔者がこないうちにね」
「え?」
「いや、早く行かないと席が埋まっちゃうなーって思ったのさ」
後半の呟きは香の耳には届かなかったようで、ミックは片方の口端をゆっくりと上げる。そしてそのまま二人で改札を通り、少し離れた街の駅へと移動した。
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