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CITY HUNTER
3
「なぁ、香ぃ」

依頼人である夏希は今、入浴中だ。香は撩が覗き行為に走らないように見張りつつ、夕飯の片づけをしていた。

「なに〜、あ、コーヒーはこれ終わってからね」

「それもあるけどそうじゃない」

「じゃあ何よ。ちょっと片付け途中だから後にしてくれない?」

「片付けながらでもできる話だから」

撩がそう言うので、香は皿を洗う手を止めて振り返った。

「っ!ちょっとぉ、気配消して背後に立つの止めてって何回も言ってるでしょ!」

先ほどまで少し離れた所から声が聞こえていたので油断していたが、今、撩は香の真後ろにいた。シンクに身体を預けていた香は驚いて仰け反るが、撩はお構いなしにシンクに両手を乗せ、香を囲い込むように立つ。

「なんで客間で寝るんだよ」

撩の言葉の意図が読めず、香は上気させた頬はそのままに首を傾げた。

「いや、依頼中はいつもそうしてるじゃない」

香は当然のようにそう言ったが、撩はどこか納得していないようだった。

「なんの問題があるのよ?それに何かあった時にあたしが一緒にいる方がいいでしょ?」

香の言葉は確かにそうなのだが、香とパートナーを組む前から、依頼人は一人部屋で寝泊まりさせていたし、時と場合によっては敵の侵入を許すこともあるが、基本的にこのアパートのセキュリティはかなり強固で、今回の依頼人を狙ったストーカー如きの侵入など許すはずもない。

「別に、今回は夏希君一人で寝泊まりしてもらっても大丈夫だろうが」

「はぁ?あたしが言ってるのは、外敵の話じゃなくてあんたの事よ、撩!」

香が撩を睨み上げると、撩はぐっ…と言葉に詰まった。たしかに、香が依頼人と共に寝泊まりするのは、撩の夜這い対策が一番なのだが。

「そ、それはおまぁが俺の寝室にくればいいだけの話だろうが」

撩の言葉に、香は一瞬固まり、そして真っ赤になった。
確かに、香はつい先日の撩の誕生日に、彼と正式な恋人になったばかりだ。彼の誕生日である26日の夜から翌日にかけてはずっと一緒にいたし、撩は飽きることなくその次の夜も香を寝室に連れ込んでその腕に閉じ込めていた。そして、その翌日の28日に依頼がやってきて、本日から香は依頼人と客間で寝起きするという流れだ。

「い、依頼中は別々!そんなの当然でしょっ!」

叫ぶようにそう言う香に、撩は自分が不機嫌になっていくのを感じていた。
香をその腕に抱いて眠りにつくことが、彼にとってあんなにも安らぎを与えてくれるものだとは思いもよらなかったことで、撩は初めての朝、ある種の戸惑いを感じていた。フワフワと朝日を受けて艶やかに光る柔らかな髪も、真夜中の情事を少しも感じさせない穏やかな寝顔も、そんな情事の名残を残す、己が付けた紅い痕も。その戸惑いの訳を確かめたくて、次の日も寝室に香を浚い、その身体を抱きしめて眠った。そしてその戸惑いが香に対する愛情の裏返しなのだと気付いた時に、思わず撩は赤面していた。誕生日からたったの2日で、この甘ったるい感情に自分が支配されている事を自覚し、撩は両手で顔を覆う。だが、自覚した途端、もう香なしの一人寝はごめんだ、と強く思った。この優しい温かさを感じながら眠る事を知ってしまっては、何もない一人に戻る事は難しい。まして同じ屋根の下、そういう関係になったのだから、一人で寝るなどという選択肢を香が持つことが、撩には信じられなかった。

「とにかく!」

撩の思考を遮るように香が叫んだ。

「依頼が終わるまで、あたしは彼女と一緒に客間で寝ます!」

香はそう宣言すると、赤い顔のままで撩の顔面にコンペイトウを叩きつけ、彼を壁へとめり込ませた。

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