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CITY HUNTER
1
香は伝言板の前でほんの少し固まっていた。

『XYZ』

そこにはそう書かれている。もう後がない…その思いがその3文字に込められている。そしてその3文字を最後に見たのは、まだ厚手のコートとマフラーが手放せないような寒い冬のさなかで、そしてその願いは、香の相棒の、

『男の依頼は絶対にいやだ』

の頑なな一言で、あっけなく香の目の前から消えてしまった。

…あのヤロウ…おかげでウチの経済状況は危機的だっての!

伝言板の文字を見る限り、これは女性だろう。そしてこの手の勘はまず外さない香の見立てでは、おそらく、パートナー好みの美女だ。

「でも、背に腹は代えられないわね」

先立つものがないと、ご飯も食べられない。自分だけならなんでもいいのだが、相棒のことを考えると、そうもいかない。あちらは肉体労働専門なのだから、それこそきちんと食べてもらわないと困るのだ。

「仕方ない、依頼人に会いに行きますか」

香は一人そう呟くと、スマホを取り出した。

その夜。香はリビングで撩にコーヒーを出しながら依頼人の話の内容を告げた。

「…ということだから、依頼、受けても大丈夫よね」

あんたの大好きな美女だったわよ、と眉間に皺を寄せながらそう告げてきた香に、撩は内心で苦笑するが、いつもの通りふざけた様な態度で香に返す。

「へぇ〜もっこりちゃんかぁ!…だが…香がそんな素直に美女を俺の前に立たせることなどしない!なんだ香…何を企んでいるんだ!」

どさくさに紛れて香の身体を触れるという意図を含ませつつ、撩は彼女の肩をガシッ、と掴む。真面目なふりで彼女の顔を覗き込むが、こういう時の香は冷静を通り越して冷たい。香は特大の『働かんかこのたわけ!』と書かれたハンマーを撩に振り下ろした。

「…お前がこの前の依頼を我儘で蹴っ飛ばしたから明日のご飯にも事欠いてるのをちょっとは自覚しろぉぉ!」

「カ、カオリン…またハンマーの腕を上げたのね…」

撩はいつもより大きな衝撃を受け、床にめり込んだ。


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