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CITY HUNTER
1
夜も更けて、そろそろ寝ようかという時間。

…ほら、やってきた。

香はコーヒーカップに静かに口をつけながら、身構えた。

「ねぇ、カオリン。そろそろ寝ようよぉ」

香は纏わりつくパートナーを無視してコーヒーを飲み干した。

「ほらほら、お互いもう風呂だって入ったし、後は親睦を深める…」

「あら、親睦を深めるのは夜じゃなくたってできるわ」

相手の言葉を皆まで言わせず、香はカップを手に立ち上がる。

「いや、それはそうなんだけどさぁ」

尚もしつこく食い下がろうとするパートナーを尻目に、香はそのままキッチンへ向った。

パートナーであり同居人である、シティーハンターこと冴羽撩と、香はめでたく?結ばれた。いわゆる大人の関係というヤツである。それはそれでお互いに求め合った結果であったし、香自身、本当に心の底から嬉しかった。(ついでに、彼らの周りの人間達も、いろんな意味で喜んでいた)

…たしかに涙が出るほど嬉しかった。だけど。

香は思う。

…だからって、なんなのよ、この態度の変化は!いきなり毎日毎日、しかも酷い時は一日何回も!こっちは身体が持たないってのよ、このもっこり大将がっ!

人並みはずれた撩の体力に、香は限界にきていた。

今日こそは、一人で寝てやる!

背後に撩の気配を感じつつ、香はカップを洗って丁寧に拭き、食器棚にしまった。

「さぁさ、香ちゃん。今日も俺の部屋に行こうね〜」

すかさず、撩が香に擦り寄ってきた。だが香は無視して自分の部屋へ向う。

「明日は依頼者に会うんだから寝坊できないのよ。だから一人で寝ます」

きっぱりと言い切るとリビングを突破しようとした。だが、そんな事で引き下がる彼ではない。

「えぇぇ〜っ!一緒に寝たって別にいいだろ。朝は俺が起こしてやるからさぁ」

「とか言って、この間起こしてくれなくって遅刻したわね、そういえば」

ギロリ、と撩を睨むと香はリビングのドアに手を掛けた。

「ぐっ…あ、あれはあれ、次はちゃんと起こすから!」

「アンタがそんなことできるハズないでしょ」

だから今日は一人で寝るから、そう言って香はドアノブを回す。と、後ろから抱き締めるように撩が覆いかぶさってきた。大きな手がドアノブごと香の手を包み、耳元で、低く囁く。

「どうした?香。ご機嫌斜めだな。何かあったのか?それとも…俺と一緒にいるのが、嫌なのか?」

今度は真面目な路線で攻めてきたわね…と香は少し頬を赤らめながらも気を緩めなかった。

「だからさっきから言ってるじゃない。アンタと…その、一緒にいるのがイヤなんじゃなくて…」

「だったら…いいだろ?今までずっと触れられなかった分、お前に触れていたいんだよ」

…真面目な顔で、甘い声で、耳元で囁くなんて、反則じゃないっっ!!!!

香は心の中で叫びながら、尚も流されないように踏ん張る。

ここでいつも流されて、気付いたらあいつの腕の中なのよ!毎日っ!

などと思っている間に、撩の手が香のシャツの裾からじわり、と侵入してきた。

「ちょ…や、やめ…」

「黙れって」

尚も言い募ろうとする香に舌打ちし、撩は彼女に口付けた。

「…んっ」

ゆっくりと手を進めながら、唇への愛撫を続ける。そうすれば、彼女はもう、俺のもの。

撩は力の抜け切った彼女を支えるようにすると、そっと唇を開放した。目の前の彼女は、圧倒的な色香を放って、とろんとした瞳で見上げてくる。

ごくり、と唾を飲み込み、最後の仕上げとばかり、耳元で囁いた。

――だが、その囁きが、撩の誤算だった。

「どうせ明日の依頼人は男だろ?俺は男の依頼は受けないし、だったらこのままお前とずっと一緒にいる方がいい」

「…え?」

香の目に、戸惑いの色が浮かぶ。そして。

「撩…あんた、またあたしの手帳を勝手に見たわね」

それまでの、匂い立つような女の色が、一瞬のうちに消え去った。

「え…あ…いや…」

「て、いうか。依頼受けないとか言ってる場合じゃないってこと、分かってるのかしら?」

「へ?」

なんだか雲行きが怪しくなってきた、と撩は冷や汗を掻く。そんな彼に構わず、香は撩の腕から抜け出すと、小物入れから紙切れを取り出した。

「これ、何かしらね?」

額に青筋を浮き立たせた香が、びらっ、と広げたそれは、撩宛の請求書。それもバーだのキャバクラだの、一件分ではない。

「あは、あは、なんだろうね〜」

笑ってごまかそうとする撩に、香がついにキレた。

「あんたねぇ!!ウチの財政分かってんの!?それなのに毎日毎日よくもまぁこれだけ飲み歩いて、それに何?午前様で帰ってきたと思ったら、毎晩毎晩あんたのもっこりにつき合わされて!撩はそのまま昼まで寝てていいかもしれないけどねぇ、あたしはそうはいかないのよ!?っていうか、あんたみたいな異常な体力はないのよ、このもっこりバカ!!!!」

それだけ言うと、香は肩で息をしながら撩を睨みつけた。手には反論を言わせぬというように、おなじみのハンマーが握られている。

「しゅ、しゅびばせん…」

香の怒りに、撩は正座して謝っていた。

「分かればいいの。じゃ、今日は一人で寝るから。あと、明日の依頼も受けてもらいますからね!」

そう言うと、香はどすどすと自室へ向う。

「そ、そんなぁぁ〜」

「なに?コンペイトウに簀巻きもつけて欲しいの?」

「けけけ、結構です」

ぶるぶると首を振る撩を見て、香はようやく笑みを浮かべて自室のドアを開けた。

「あ、それから、今日のトラップはいつもの倍だし、さすがの撩でも死ぬかもしれないから気をつけてね。じゃ、おやすみ〜」

笑顔のままでそう告げると、香はドアをパタンと閉めた。暫く後、気配が静かになった。

「…今更一人でなんて寝られるかぁぁ!!!!」

ようやく結ばれた女と、同じ屋根の下、なぜ別々に寝なきゃいけないんだっ、そう息巻いて彼女の部屋に侵入しようと試みた闇の世界のbPは、翌日ズタボロのままで依頼主と会う事になったようだ。


あきゅろす。
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