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CITY HUNTER
3
「リョウとの関係が、不安かい?」

ミックは手を戻すと、目の前に運ばれてきた紅茶に口を付けた。ふわりと良い香りが鼻腔を刺激し、オイシイね、と香に笑いかける。香はそんな彼を見て、頬を緩めた。

「不安…とは、違うと思う。ただね。撩にとってあたしは、時々邪魔なんじゃないかなって」

「どうしてそう思うの?」

「…なんていうか、ね。撩って、あたしに出会うまでは…足枷になるようなことも、誰かに縛られるようなことも、きっとなかっただろうと思うんだけど、あたしは確実に撩の足枷であり、自由を奪う存在だったと思うのよね。ほら、あたしはアニキからの預かり物だったわけだし」

香はそこまで話すと、一度言葉を切ってカップを口元へ運んだ。ミックは黙って香を見つめる。香が撩についてこうやってミックにストレートに話すことは、実はあまりない。以前、写真をもらうために彼女の部屋に忍び込んだ時を入れても、片手で数えられるくらいではないだろうか。
彼は香と同じ様にカップに口を付けると、彼女が話し出すまで柔らかい笑みを絶やすことなく香を見ていた。急かしたところで香の口から素直な心が聞けるわけではないし、ミックは香のペースで言葉が紡がれるのを待つ。

少しの間二人に穏やかな沈黙が流れた後、ふっ、と彼女の唇が小さく歪むように弧を描いた。

「美樹さんと海坊主さんの結婚式の時に言ってくれた言葉は本当に嬉しかったし、その後も色々あったけど、撩はなんだかんだであたしには色々与えてくれている…まぁ、相変わらずナンパも夜這いもしてるけどね。でも、あたしはあいつに、何をできているんだろうって思っちゃって。そう考えたらね、結局あたしじゃなくてもできる事しかないっていうか」

上手く言えないんだけど、と香が苦笑すると、ミックは眉を顰めてやれやれ、と肩を竦めた。

「…リョウはカオリに対しては本当にアマノジャクだからなぁ。だからこうやってカオリが悩まなくちゃいけなくなる。ったく、チェリーじゃあるまいし、時々見ていてイライラするよ。でも…カオリじゃない誰かが、リョウをあんな風にすることは、絶対できないだろうね」

「え?」

自分の言葉に小首を傾げるような仕草をする香は、本当に可愛いとミックは思う。素直に感情を表し、どんな時も相手に対して真摯な眼差しを送る香の存在は、ミックにとっては未だに特別で、そんな彼女を独り占めにするかつてのパートナーは、正直羨ましいとも思った。

「あのリョウが、カオリを何年も手放さなかったことが全ての答えじゃないかな。何かに縛られることが何よりもキライな男が、それを差し置いても一人の女に縛られることを選んでいる時点で、カオリは凄い女だとおれは思うよ。そしてそれは、やっぱりカオリじゃないとできなかったことで…リョウは手放せないと悟った瞬間に、カオリには負けていたのさ」

そう、きっと撩は、香という光に気付いてしまった時点で、もう逃げられなかったのだろう。香が撩に惜しみなく与え続ける温もりと愛情は、撩が飢え、渇望し、諦めて、そして目を反らしたその先に転がり込んできたもののはずだ。そして今、その光が、その温もりが消えてしまったら、撩はきっとなんの躊躇いもなく、この世から消えてしまうだろう。命の拠り所をなくした撩は、壊れる以外の選択肢を持っていないはずだから。
ミックはそんなことを考え、そうならないようにと心の奥で願っていた。

ミックの言葉に驚いたように息をつめていた香だったが、やがてゆっくりと瞬きするとクスッと笑った。

「ミック…ありがとう。本当にあなたは優しいのね」

「そうだよ、おれはリョウと違ってカオリには優しいだろ?どう、今からでも…」

「かずえさんに言いつけるわよ?」

ティーカップを持つ手を握ろうとして、軽く躱され睨んでくる香に、ミックはおどけてホールドアップした。それを見ていつものように笑い出した香につられて、ミックも笑う。ひとしきり二人で笑った後、彼は徐に口を開いた。

「…もし、リョウより先におれと出会っていたら、カオリはおれを選んでくれたかな」

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