CITY HUNTER
1
言い出したら聞かないことは百も承知だ。だが、しかし。
「やっぱりダメだ。お前一人では危険が多すぎる」
撩はそう言うと、飛び出そうとした香を制した。
「だからって、このままで良いワケないでしょ?彼女を抱えていくらあんたでも突破はできない」
大丈夫、無理はしないから。そう笑う香に、それでも撩は頷くことを躊躇った。
――なんちゅうか、誰かコピーロボットくれんかな。
敵に囲まれた上、火の手に追われているこの状況で、撩は思わず暢気なことを考えてしまった。勝手気侭に行動した挙句、香をも巻き込んでの逃走劇の末に敵の手に落ち、そして未だ目の覚めない依頼人を抱えたまま、そんなことを考えられる自分に思わず笑ってしまう。
だが、状況的にその願いは、それほど突拍子もないわけでもないと思っていた。もちろん、それが物語に出てくる架空のアイテムではなく、実際の世の中にあればの話だが。
「ねぇ、撩」
「ダメだって言ってるだろ」
「もぅ…最後まで聞いてってば」
真っ直ぐに見つめてくる香に、内心舌打ちしながら撩は視線だけで彼女を促した。
「ね、あんたのジャケット、貸して」
「はぁ?」
何を考えているのか分らないが、香は真剣な眼差しで彼を見上げ、ジャケットの裾を少しだけ引っ張った。
「撩のジャケットを着て、囮になった方がいいでしょ?」
「だから」
「お願い、そうでもしないとここから抜け出せない。このままじゃあたし達だけでなく、彼女も死んじゃうわ」
「だから、そんなことしなくても…」
「撩」
香に名前を呼ばれ、思わず撩は口を噤んだ。真っ直ぐで澄んだ瞳が見つめてくる。
「信じて。大丈夫。絶対に絶対に、無茶はしない。絶対に死なないから」
不安など欠片も見せないその瞳に、撩もついに根負けした。
「…ったく、言い出したらテコでも動かないからなぁ」
「えへへ、良くご存知で」
何が『良くご存知で』だ、と撩はため息を吐くとジャケットを脱いだ。それをそっと香の肩にかけてやる。
「いいか、香。囮になるのは10分…いや、5分でいい。」
「うん」
「ここを脱出したら、外で待機している冴子に彼女を保護してもらう。すぐに引き返してくるから、お前は5分だけ逃げ切ってくれればそれでいい」
「分かった。任せて」
大きく頷きニッコリと笑った彼女の頭を、撩は一撫でした。くしゃっ、と柔らかな手触りを一瞬楽しんだ後、撩は依頼人を抱え上げた。
「ね、撩」
「なんだ?考え直したか?」
香の呼びかけに撩は無駄だと思いつつそう返す。案の定、違うわよ、と言われた後、少し照れたように香が笑った。
「これ着てると、なんだか撩に守られてる気分になる」
じゃ、また後で、そう言って駆け出した彼女の後姿に、撩はまた呟いた。
「あぁ、マジ、コピーロボット欲しい…」
もし自分が二人いれば、コピーに依頼人を託し、己は香と共に危険の中へ飛び込める。
…あ〜、でもあれか。コピーが俺の丸写しなら、どっちが香につくかで揉めそうだ。
撩はため息を吐くと、下らない思考を止め、香とは反対方向へと駆け出した。
――依頼人の安全を確保した二人に、敵が完膚なきまでに叩きのめされるまで、あと少し。
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