[携帯モード] [URL送信]

CITY HUNTER
〜After Story〜
カラン、とベルの音がして、背の高い男がフラリと入ってきた。女主人の姿を目にするや、彼は横飛びして彼女に抱きつこうとする。

「みっきちゅわぁ…ふぎゃ!」

だがそれも敢え無くかわされた上に、皿を洗っていた彼女の旦那にトレイで顔面を強打され、床に倒れこむように落ちた。

「まったく、本当にいつもワンパターンね」

呆れたようにそういう女主人は、手を叩くように払うと、苦笑しながらも手早くコーヒーの準備を始めた。床にカエルのように臥せった男も、何事もなかったかのようにその言葉を聞くと起き上がる。そして指定席のようなカウンター席に腰掛けた。

「お久しぶりね、冴羽さん」

「久しぶりぃ、美樹ちゃん。撩ちゃんに会えなくて寂しかった?」

くねくねと身体をくねらせる相手にただ苦笑していると、皿を洗い終えた女主人…美樹の旦那が口を開く。

「お前なぞいないほうがよっぽど世のためだ」

「うるせぇ、タコ坊主には言ってねぇよっ!」

「誰がタコだっ!」

がるるる…、と睨みあう二人に、美樹が苦笑する。まったく、いつもは冷静な夫でさえも、撩といると時々子供のようになってしまうのだ。

「二人とも、子供みたいね」

美樹のその一言に、海坊主はバツが悪そうに身を引き、撩は、アハハ…、と頭を掻いて笑った。

「でも、一週間もどこへ行っていたの?香さんもこなかったし…依頼?」

美樹がコーヒーを差し出しながら、撩に尋ねる。いつもほぼ毎日この場所へやってくる彼らが、一週間も顔を見せないとなると、久々の依頼でも入ったのだろう。そう思って聞けば、撩は、まぁね、と、どこか煮え切らない言い方で濁した。だが、同業者であるため、依頼内容などどうしても言えない場合も多いし、美樹もあえて聞き出そうとはしなかった。それがルールであり義務なのだ。それはお互いに良く分っていた。

「そう、それはお疲れ様。香さんは?今日はどうしたの?」

「香は…ちょっとお疲れでね」

ずずずっ…とコーヒーを啜りながら、どこか楽しげに言う撩に、海坊主だけが僅かに反応した。それを横目で見て、撩は内心で苦笑する。やはり、彼は気付いているのだろう。

そこへ、騒がしい来客がやってきた。カララン、と派手にカウベルを鳴らしドアを開けると、金髪のアメリカ人が血相変えて入ってくる。そしてカウンターの撩に掴みかかった。

「…おい、リョウ!」

「なんだミック、久しぶりだな」

何食わぬ顔で手を上げ挨拶した撩を、そのアメリカ人…ミックは胸倉を掴んだまま揺すった。

「お前…お前、ついにオレの可愛いカオリを…カオリを陥れたな!?」

ミックの穏やかでないその一言に、美樹が驚く。

「ちょっと、ミック、落ち着いて!どうしたっていうのよ?」

美樹が二人の間に割って入ると、ミックが特有のオーバーなリアクションで、美樹の肩を掴んだ。

「聞いてくれるかい、ミキ!リョウのヤツ…カオリを誑かしたんだよ!」

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇ!」

さめざめと泣くミックに、撩が突っ込んだ。美樹は目を白黒させていたが、可愛い妹分でもある香のことについては、撩に言いたい事はいつも山ほどあったのだ。ミックの言葉次第では、美樹も撩を糾弾せねばならない。

「ちょっと、落ち着いて、ミック。何があったっていうの?」

美樹がそう聞くと、ミックは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「聞いてくれるかい?リョウのヤツ…オレに一言も言わず、カオリと結ばれたんだよっ!オレの可愛いカオリをっ」

「…え?」

ミックの言葉に美樹は目を見開き、撩は飲み終わったコーヒーカップを静かに置いた。海坊主は洗い終わった皿を拭いている。

「カオリが…カオリがオオカミの元へ…」

「香がいつお前の物になったんだよ、ちゅうか、誰が狼だ」

「オマエに決まってるだろ!あの指輪、オマエが贈ったんだろ!彼女の指にはまってたぞ、指輪が!オマエ、カオリを誑かしてモノにしたんだろっ!吐け、吐き出せっ!」

撩はやれやれ…と肩を竦めると、ミックを見た。

「それ、槇村に貰ったやつだろ」

「は?」

「今日はエイプリル・フールだ。お前、香に担がれたんだよ」

「え?」

「まったく…薬指に指輪したら誰か反応するかなぁ、っていう香の素朴な疑問に担がれたんだよ。お前が反応してくれたおかげで、俺が掛けに負けたじゃねぇか」

「…カケ?」

「あぁ。誰も反応しなかったら俺の勝ち。誰か一人でも反応したら香の勝ちって掛け。ちっくしょう、外出れないようにしてあったのになぁ」

後半はブツブツと言うと、撩は席を立った。ごっそさん、と手を上げると、珍しくきっちり代金をカウンターへと置き、そそくさと店を出る。残されたミックは、放心したように席に付き、差し出されたコーヒーを手にした。

「じゃあ…あれはカオリのお遊びだったってことか」

「…ミック。今日はエイプリル・フールだと撩が言っていただろう」

カップに口を付けようとしていたミックに、海坊主がボソリ、と言った。美樹はその言葉を聞き、口に手を当てる。

「もしかして…」

「撩が10日程前、指輪を見ていたという話を聞いている」

「じゃあ…リョウ!!」

ガタッ、と席を立つと、ミックが慌てて出て行った。事の真相を確かめるつもりだろうが、それは撩も分っているだろう。出遅れたミックは、結局その日一日、撩と香の居場所を突き止めることが出来なかった。

「ファルコンったら…知ってたの?」

「あぁ…アイツが言わないなら、暫くは黙っておこうかと思ってな。香もその方が落ち着くだろう」

「あら、ファルコンったら、香さんには優しいのね。妬けちゃうわ」

「み、美樹!」

「ふふっ、冗談よ」

赤面し焦る夫に、美樹はくすっ、と笑った。

「…そうだ、せっかくだし、何かお祝いしなきゃね」

そしてそう言うと、光り溢れる外の景色に視線を移す。

少し早く咲いた桜と共にやってきた幸せなニュースに、美樹は目を細め微笑んだ。

[*前へ]

あきゅろす。
無料HPエムペ!