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CITY HUNTER
2
シャワーの音が止んだのを聞き、撩は小さく笑った。料理も終わり、全て容器に詰めた。今はそれらを愛車に積んでいたところだ。せっかく香が今日のために用意してくれた食材がダメになるのは忍びなかったとはいえ、事前に伝えることもできなかったので、撩がその全てを調理する破目になったわけなのだが、彼女が作ってくれようとした物を想像し、それを作る行為は、意外と楽しかった。撩ちゃんってばいいお婿さんになれそうね、などと冗談の独り言を呟くと、それと同時に香が撩の前に姿を現した。

「似合ってるじゃん」

「…ねぇ、撩。この服、どうしたの?」

バスルームから戻ってきた彼女が身に着けている洋服は、彼女の親友である絵梨子に用意してもらったものだ。バスタオルと共に、脱衣場にそれを置いておいたのだ(もちろん、下着も用意した)。撩たっての希望で白を基調としてもらったのだが、さすがは世界のエリ・キタハラだ。香のよさを最大限に引き出したデザインとなっている。

「香、XYZだよ」

「えっ?」

スカートに手をやり服を見ていた香が、驚いて顔を上げた。

「依頼がきたの?」

「あぁ、それもお前にしか片付けられん依頼だ」

「あたし、だけ?」

「ということで、出かけるぞ」

そう言うと、撩は香の肩を抱くようにして玄関の方へと歩き出した。驚く香も、連れられるままに外へ出る。

「ねぇ、どんな依頼なのよ?」

そう撩に訊ねるも、彼は楽しげに口笛を吹くだけで、何も答えない。そのままアパートを出ると、スタンバイしていたミニ・クーパーに乗り込んだ。

「まずは槇村んとこに行くか」

ハンドルを握る撩がそう言った。

「…31日には、多分行けないだろうからな」

「その依頼、そんなに長引きそうなの?」

「…あぁ、まぁ、な」

肝心なところをはぐらかす撩だったが、二人で連れ立って出かけるという事は、いずれ依頼の内容も話してくれるだろうと香は口を噤んだ。問い詰めたところで答えるような男ではないし、こんな格好をさせられたのにもワケがあるのだろう。撩の様子からすると、どうやら危険が迫っているようでもなさそうだ。そっと横顔を見ても、その手の緊張感は感じられない。それに…後ろに積まれた大量の料理からして、血腥い仕事でないことは想像に難くなかった。もし、人の生死に係わるような依頼なら、まず後部座席やトランクには、武器となるものや工具の類が積まれるはずである。

何より、香が用意した食材に気を使ってくれた彼なりの優しさが、香は嬉しかったのだ。撩は気づかれていないと思っているかもしれないが、香はそんな撩の心をちゃんと分っていた。自分の手で作ったものを撩に食べてもらうことはできなくなったが、こうして一緒にいられるということは何にも変え難いもので、だから、それに免じて今は黙っていようと思った。それに、今、香に何も言わないのは、それなりの理由があるからに違いない。

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