CITY HUNTER 10 帰宅しても2、3日は安静にして様子を見る様に、と言われたためか、それからも撩は香の傍にいた。もう大丈夫なんだけど、と言っても、なんだかんだで伝言板も一緒に行くし、普段はやらないような荷物持ちの買い物にも一緒に行く。そしてキャッツへも。 「海坊主さん、美樹さん。改めまして、今回はお世話になりました」 そう言って香が手作りの菓子を差し出した。海坊主は、気にするな、とだけ言って、いつも通り皿を拭いている。美樹は微笑むと、香から菓子を受け取った。 「気なんて使わなくていいのに」 「これはあたしの気持ちだから」 「じゃあ、これは私の気持ちね。冴羽さんにもついでに淹れてあげる」 美樹はそう言うと、香にコーヒーを差し出した。 「ちぇっ、撩ちゃん、カオリンの付属品かよ」 「こんな付属品、こっちから願い下げだわ〜」 「どういう意味だよ!」 「そこらじゅうでナンパするしもっこりする、そんなのに付きまとわれるのはイヤだって言ってんの」 「ふ〜ん、そんなこと言うなら、一生付きまとってやる!」 「はいはい、お店壊したら、またツケが溜まるだけよ?」 美樹の言葉に、二人は口を閉ざし、思わず顔を見合わせる。そんな二人に美樹は吹き出した。 「…冴羽さん、随分素直になったのね」 「ちょっと美樹さん、こいつのどこが素直なの?」 「だって、“一生”付きまとうだなんて」 「質の悪い悪戯にしか聞こえないけど」 「美樹ちゃん、天然鈍感娘には何言っても仕方ないよ」 「たしかに…冴羽さん、今日は特別におかわりも奢るわ。誕生日プレゼントと、素直になった記念にね」 「サンキュー、美樹ちゃん」 「えぇ、なんか納得いかないんだけど」 「気にするな、そのうち分かるだろ」 撩と美樹と、そしてそれをニヤニヤと聞いていた海坊主、全員分かっているのに自分だけ分からないその話に、香は子供のようにぷぅ、と頬を膨らませながら、コーヒーに口を付けた。 それはいつもの穏やかな昼下がりだった。 [*前へ][次へ#] |