CITY HUNTER
4
翌日、撩と香はハナを伴って教授の屋敷に赴いていた。要件などは予め教授に伝えていたらしく、すぐに資料の置かれている部屋へと案内された。
「待っておったよ、ベビーフェイス」
「お忙しいところ、すみません」
「何、香君だけでなく、可愛らしいお嬢さんまで連れてきてくれたんじゃ、なんの問題もない」
教授の言葉に、かずえが溜息を吐く。今日は良い茶葉をもらったとかで、全員が紅茶を振る舞われた。
「教授。冴羽さん達に伝えることがあるんですよね?」
かずえにそう言われ、教授はコホン、と咳払いする。そしてかずえに手渡されたタブレットを操作して、壁をスクリーン代わりに、資料を映し出した。
「お前さん、ミックにも頼んでおったそうだが、その分の資料もまとめてあるよ」
そう言うと、教授は澱みなく説明を始めた。ハナの両親がいる研究所について、そこでどんな研究が現在行われているのかについて。そして、裏に隠された研究についても言及する。
「…ハナさん。君のご両親が研究していたことは、万が一の事が起こった時、多くの人が助かるための研究をしていたことは確かなようじゃ。ただ、それを作られては困る勢力が、そのデータを奪おうとした。だから、そのデータをご両親は持ち出し、隠したのだろう。そしておそらく、その鍵が、君のペンダントに隠されている」
「これ、に…?」
ハナは思わず、ペンダントトップを握りしめた。隣にいた香は、その肩を抱く。静かに聴いていた撩が口を開いた。
「ハナちゃん。そのペンダント、ちょっと変わった形をしているだろう?」
撩にそう言われ、ハナは頷いた。どこかのブランドの物かとも思ったが、どうやら違うようだったし、父や母は、ただ『お守りのようなものだから、肌身離さず持っていて欲しい』と言っただけだったのだ。何となくその真剣な言葉に、ハナは言われた通り身に付けていた。幸い、ラフな格好を好む彼女のスタイルには違和感なく溶け込んでいたデザインだったから、気に入って付けているということもある。
「それは、君の…おそらくはお父さんの声の波形だと思う」
撩の言葉に、ハナだけでなく、香も驚いていた。ハナは急いでそれを首から外し、掌に乗せる。二人でその不思議な形を見ていると、教授が言った。
「他人に渡すのは嫌かもしれんが、ハナさん。それを分析したいから、今日だけでいい、儂にそれを預けてくれんか?」
教授の言葉に、ハナはほんの少し逡巡した後、それを差し出した。教授は優しく目を細めた後、それを受け取りかずえに手渡す。かずえは頷くと、それを持って分析するため、部屋を出た。
「それから、ハナちゃん。急に身に付けていたものがなくなると、相手に何か勘付かれるかもしれないから、これを付けていてくれないか」
撩が差し出したものは、ダミーのペンダントトップがついたペンダントだ。形はよく似ているが、完全に同じではない。
「これも誰かの声の波形だったりするの?」
香が覗き込みながらそう言うと、撩が笑う。
「いや、似せて作っただけさ」
「そう。でもよくあれが声の波形だって知ってたわね」
香の言葉に、何故か教授が意味深に笑った。撩はそんな教授には素知らぬ顔で、香に返す。
「愛の言葉を送るのに、選択肢としてはなかなかロマンチックだろ?」
「…あぁ、そういうこと」
「いや、知識として知ってるだけだからな!さすがにそんなモン、贈ったことなんざねぇぞ!」
「さぁ、どうかしらね」
一気に冷たくなった香の声色に、撩は慌てて否定した。確かに知識としては知っていたが、会話のネタになるだろうと思って頭に入っていただけで、自分の声をわざわざ他人に晒すようなことなど、するはずもない。
「香ちゃ〜ん、信じてよぉ」
「うるさい、そういうこと絡みでおまえの言うことは信用ならん!」
「えぇ〜そんなこと言わないでさぁ」
そんな二人のやり取りを、教授とハナは、笑いながら見ていた。
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