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CITY HUNTER
2
「ハナさん、怪我はしてない?」

撩と香がキャッツへと入ると、依頼人であるハナがボックス席に不安げな表情で座っていた。香の顔を見てあからさまに安堵した表情に変わったのが分かり、香は笑みを返す。撩はハナを含めた三人分のコーヒーを美樹に頼むと、ボックス席に腰掛けた。

「はい、私は大丈夫です。槇村さんは…」

「香でいいわ。私も大丈夫。で、こっちが労働担当よ」

「冴羽撩です。う〜む、ナイスバディのもっこりちゃん!ハナちゃんって言うんだね」

語尾にハートマークを散らし、すかさず手を握ろうとする撩をミニハンマーで香が潰すと、ハナはそれを見て目を丸くした。そしてすぐ復活した彼と、何食わぬ顔でハナにコーヒーを薦めてくる彼女に、思わず笑ってしまう。

「やっと、笑ってくれた」

「え?」

香の微笑みと、その隣で柔らかく二人を見つめる撩に、ハナは戸惑った。だが次の香の言葉に、はっ、と息を飲む。

「公園で対面した時から、ずっと硬い顔だったから。やっと笑ってくれたなと思って」

「香さん…」

両親が事故に遭って意識不明で入院して以来ずっと、確かにハナは笑っていなかったかもしれない。そしてその直後から何者かに付きまとわれ、先ほどは襲われ、張り詰めた生活に限界がきていた。目の前の香は、それを感じ取ってくれたのだろうか。
ハナははらはらと零れる涙も拭わず、静かに泣き出した。香はそっと彼女の頭を抱き寄せると、撩を見る。彼は一つ頷くと、黙ってコーヒーに口を付けた。

暫くして、ハナは落ち着きハンカチで目元を拭った。大丈夫?と顔を覗き込んでくる香に赤面し、ハナは頭を縦に振った。

「お恥ずかしいところをお見せして」

「そんなことないわ、今日まで頑張ったわね」

微笑む香にハナも笑みを返す。そんな二人を静かに見つめていた撩が、口を開いた。

「さて…さっきの襲撃で、君がもう『あとがない』状況なのは分かった。具体的な話を聞かせてくれないかな」

「はい…最初は、両親の事故が発端でした」

ハナの話によると、ハナが知らなかっただけで、両親は脅されていたらしい。慌ただしい入院手続きの際に大事な書類などが入った戸棚を開けた時、そういう類に手紙を見つけたそうだ。それまでそんな素振りは一切見せなかったのだが、娘にはそんな素振りも見せず、笑顔の裏で、彼女の両親は何かと戦っていたのかもしれない。
もちろん、警察にも相談はした。だが、その手紙が今のものなのか分からず、そしてハナ自身が脅迫に気付かないでいたというのなら、現時点では何もできないとのことだった。事故についても両親の不注意によるものだと言われ、車も調べてもらえなかった。

「…だから、警察に言ったところで信じてもらえると思えなくて」

「でも、現に今日は被害に遭っただろう?もしなんなら、知り合いの警察官を紹介してもいいが」

「…これ、読んでみて下さい」

撩の言葉に、ハナが持っていた鞄から一通の手紙を差し出した。撩はそれを手に取ると、香をチラリと見る。香は席を立つと、撩の隣に移動して、二人でその手紙を読んだ。

「…生物、兵器?」

「君のお父さんとお母さんは、どういった仕事をしていたのかな?」

「どこかの研究所にいたことは確かなんですが、守秘義務があるとかでそれ以上の事は」

「なるほどね」

撩は顎に手を当てて考え込む仕草で手紙を見つめる。香はそんな撩の横顔を視界に入れながら、ハナに言った。

「ご両親、病院で狙われたりはしていないの?」

「今のところ不審な事はなさそうですが…」

「撩、どうする?」

どうする、とは、依頼を受けるか受けないかという意味でないことは、撩も分かっている。香の事だ、こんな状態の彼女を放っておくようなことはできないだろう。

「あぁ、今日からアパートに移動してもらおう。ハナちゃん、急で悪いが、旅行に行くとでも思って、おれたちの住んでいるところで一緒に生活してもらえるかい?」

「ハナちゃんの好きな物、いっぱい作るからなんでも言ってね?」

二人の言葉に、ハナは目を見開いた。

「依頼…受けて頂けるんですか?」

「あぁ、美女の依頼は断らないよ」

「撩がこう言ってるんだから、何も心配しないで。こいつ、仕事はちゃんとできるから」

「香ぃ、一言余計なんでない?」

「うるさい。美女と見れば見境ないあんたにはこれでも足りないぐらいよ」

「しょんなぁ〜」

二人のやり取りに、ハナはまた笑う。それを撩と香も笑顔で見つめ、そして一度視線を交わすと立ち上がった。

「さ、決まったのなら善は急げだ。君の家に行って、当面生活に必要なものを取りに行こう」

「そうね。あ、撩はハナちゃんの部屋に入っちゃ駄目よ。タンス漁るでしょうから」

「し、しねぇよそんなこと」

「信じられるかボケ!じゃ、行きましょうか、ハナちゃん」

「はい!」

頷いたハナを促すと、三人はキャッツを後にした。


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