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CITY HUNTER
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「やった…依頼だわ…!」

香は伝言板に書かれた『XYZ』を見つけて、思わずガッツポーズを取った。丁寧に書かれた文字からして、女性であることは間違いないだろうと思ったが、本当に…本当に久しぶりの依頼に、女性であることによる、撩の仕掛ける夜這い対策のための気苦労より、これで明日のご飯にも困らなくて済む、という安心感の方が大きかったのだ。いそいそと連絡先に電話してみると、やはり女性の声で丁寧に名乗られ、挨拶された。だが、切羽詰まっている様子は言葉や声に滲み出て、香は緊急を要する依頼であると判断し、すぐに彼女と会うことを決めた。撩にもその旨をメールで伝え、そして依頼人である彼女が指定した場所へと赴く。そこは、香や撩とも仲の良い夫婦が営む、ようするにCAT’S EYEとほど近い公園だった。公園の桜はもう綻び始め、それを見た香は、思わず頬を緩ませる。

「依頼人の方ですか?」

香が公園のベンチに座っていた女に近づいた。聞いていた通りの服装と、少し変わったデザインのペンダントを着けた彼女は、ベンチから立ち上がると香を見つめる。バッグのショルダーストラップを握りしめる手とその表情に緊張を見てとり、香は柔らかく微笑んだ。

「お待たせして、ごめんなさいね」

相手は香の気さくな雰囲気と微笑みに、どこかホッとしたように詰めていた息を吐き出し、ぎこちなく笑った。

「いえ…私も先ほど来たばかりなので」

「そう。とりあえず、座りましょうか」

香はそう彼女を促し、ベンチに腰掛けた。そして自分がシティーハンターの片割れであること、名前は槇村香であることを告げ、彼女の名前を尋ねる。

「まずは名前を聞かせてもらってもいい?」

「はい。森田ハナと言います」

「ハナさん…ね。それで、依頼内容を聞いてもいいかしら?」

香がそう聞いた時、その場の空気が、ビリリ、と変わった気がした。目の前のハナの顔も強張り、香の後ろを見ている。とっさに香が振り返ると、そこにはナイフを手にした男が立っていた。完全にプロという雰囲気ではないが、そこら辺にいる一般の男性とも違う、いわゆる、チンピラといったところだろうか。
香はハナを庇うように立ちあがると、男を正面から見た。真っ直ぐに見返してくる香に、男はたじろぐ。香はそんな男から目を離さずに間合いを取った。

「あたし達に、なんか用でも?」

「お前に用はない。そっちの女を渡せ」

香を睨み付ける男に、彼女も強い瞳で睨み返す。背後で怯えた気配を見せるハナを背中で隠し、香は男と対峙した。

「こんな大通りに面した公園で、そんなもの振り回したら、すぐ通報されるわよ」

「女を渡してくれれば、あんたに危害はくわえない。向こうで仲間も待ってるから、通報されてもすぐに逃げられるしな」

ジリジリと詰め寄った相手に、香は身構える。

「あいにくと、そんなもの見せられても、はいそうですかと引き下がれるような性格じゃないの。あんたの身の為にも、ここはあんたが引く方がいいわよ」

「言わせておけば…」

男はそう言うと、いきなりナイフを香めがけて振りかざした。その刹那、香が後ろのハナの肩に手を掛け叫ぶ。

「ハナさん、走って!通り沿いの喫茶店に駆け込んで!」

香はわざとハナを突き飛ばす様に押し出した。この場所なら喫茶店は馴染みの店しかない。そして叫びながら、自分は突き出されたナイフを避けた。ハナは押されてよろめいたが、直ぐに立ち直って言われたとおりに走り出す。男が追いかけようとしたが、香はその進路に立ちふさがった。

「悪いけど、彼女は大事な依頼人なの。あんたたちに渡すわけにはいかないわ!」

香は肩に掛けたハンドバッグを手にする。こんな街中で武器を手にするわけにはいかないため、バッグを目の前に盾の代わりに掲げた。その瞬間、振り下ろされるナイフがバッグに刺さるが、中に入っている物に当たり、その衝撃で刃が折れる。男は舌打ちしてナイフの柄を放すと、素手で殴りかかってきた。寸でのところで香はそれを避け、男の後ろに回り込み、その背を蹴り飛ばす。男がよろけたところで、撩が公園の入り口から駆け込んでくるのが見えた。

「香っ!」

「撩っ!依頼人はキャッツよ!」

撩の登場によって、二人相手は分が悪いと感じたのか、男は舌打ちすると撩が来た方とは反対側に走り出し、逃げ去っていった。すぐに駆け寄ってきた撩に、香は、大丈夫、と頷いて見せる。

「随分と、荒っぽい相手だな」

「そうね。アニキに助けられちゃったわ」

香はそう言うと、切り裂かれたハンドバッグから、ローマンを取り出す。先ほどの衝撃は、ローマンにナイフの刃が当たった時のものだったのだ。

「さすが槇村…助かったな」

「うん。さて、依頼人が待ってるから、キャッツに急ぎましょ」

「あぁ」

撩はそう頷くと、まるで香を護る様に彼女の背に掌を当てて、二人並んでキャッツへと駈け出した。


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