旧戦国 1 傍目にみても、その二人は目立っていた。片や、鬣のような金の髪と大きな体に派手な衣装を身に纏い、これまた大きな馬に跨がっている男。世に有名な前田慶次その人である。もう一方は体の割に大きな薙刀を持ち、こちらも馬に跨がっていた。女ながらに傭兵を生業としている名無しである。二人は先程から不毛な言い合いを繰り返していた。 「…なんでついてくるんですか?」 「そりゃ俺の行く方向が名無しの行く方向と同じなだけだろう」 「さっきからそればかりじゃないですか」 「それ以上の言葉はないねぇ」 「…」 しれっ、とした顔でそう言い続ける慶次に、名無しはさすがに我慢出来なくなっていた。だが、怒れば更に慶次の思うツボな事は、この短い道中でもよく分かっている。どうしたものか…悩んでいると、分かれ道に行き当たった。ふと、名無しに名案が浮かぶ。 「…慶次殿はどちらへ?」 「お前さんは?」 「慶次殿が先に言って下さいよ」 名無しはにっこり笑って慶次を見た。そんな彼女に、彼はすっと目を細め暫く考えた後に、一方を指した。 「…あっちかねぇ」 その慶次の指差す方向を見て、名無しは綺麗に笑顔を見せながら、馬首を逆の方向へと向ける。 「あぁ、ならここでお別れですね!では、また何処かの戦でお会いしましょう!」 そう告げると、名無しは慶次が何か言おうとするのを無視し、馬を走らせた。後ろも振り返らず、暫く駆けさせた後、もう大丈夫だろうという所まで来て馬の足を緩める。本当は慶次の指差した方向へ向かうつもりであったが、彼から離れられるのであれば、惜しい道でもない。 ――アノヒトハ、トテモキケンナカオリガスル―― 名無しの心にそんな声が響いた直後、背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。 「よぉ、名無し!また会ったなぁ」 [次へ#] |