旧戦国
2
一方、二人の大きな子供から逃げ出した名無しは、新たな客を案内し、少し暇な時間ができていた。何をしようかと廊下を歩いていると、前から見知った顔の若い男がやってきた。
「幸村様!」
「おぉ、名無し殿!新年、おめでとう。今年も宜しくお願い致す」
「明けましておめでとうございます。こちらこそ、頭領共々宜しくお願い致します」
丁寧に頭を下げニッコリ微笑む名無しに、幸村も笑みを零す。
「名無し殿、今日はいつもと違って…その、似合ってますな」
彼は彼女とは戦場でしか会ったことがなかったため、しばし見惚れていた。名無しも照れ臭そうに笑う。
「ふふっ、ありがとうございます。あの、今日は若の所へ?」
「あぁ、お館様の名代で伺ったのだが…」
「まぁ、でしたらこちらへ」
名無しが孫市と慶次がいるであろう所へ幸村を案内しようとした時、廊下をトタトタと走る音がし、威勢のよい声が響いた。
「おい、幸村のムッツリスケベめ!」
「政宗様!」
「政宗殿!?」
声の方を見ると、奥州の独眼竜・伊達政宗がいた。彼は二人の間に立ち、幸村を睨む。
「儂のいない所で名無しを口説くとはな。お前はくのいちと遊んでおれ、馬鹿め!」
「ちょっ、政宗殿!さっきの発言は何なんですか!?」
「ふんっ、主の名代だとか言って、どうせ名無しに会いにきたのであろう?儂はそんなものなくとも正々堂々と名無しを貰いにくるわ!」
「なっ…私がお館様をダシに使っていると?そんなことはない!名無し殿、私はその様なつもりで此処に来たわけではない。貴女に会いに来る時は正々堂々ときます!」
「どうだかな。名無し!お前がグズグズしているからこんな輩がくるんだぞ、早く儂の所に嫁にこんか!」
せっかく逃げ出せたと思ったらまた新手がきた…、と名無しは迫ってくる二人を引き攣った笑顔で見た。とにかく、ここは何とかしなければ今にも喧嘩を始めてしまいそうだ。
「ゆ、幸村様!信玄公の名代で若に会いにいらっしゃったんでしょう?政宗様も!まずは若にお会いになっては如何ですか?」
「おぉ、そうであった」
「まぁ名無しの上役に当たるわけだからな。挨拶ぐらいはしておくか」
名無しの言葉に、二人は取り敢えず孫市に会うことにした。廊下を賑やかな二人に挟まれ、なんとか孫市の部屋に着く。
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