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旧戦国
2

名無しは一つため息を吐いた後、髪止めがわりに頭に巻いていた布を取ると、孫市の腕の傷をそれで縛った。

「悪いな、名無し。でもこれならいつでも名無しと戦場に立ってるみたいだ。これは俺のお守りにさせてもらおう」

その布を触りながらそう笑うと、孫市は立ち上がった。そんな彼の腕を、名無しが引き止める。どうした、と孫市が言おうとして振り向いた、その時。

「…無理は、しないで」

そういって真剣に孫市を見つめる名無しの瞳とぶつかった。

「孫市様が戦上手なのは百も承知です。この戦だってもう先は見えてます。多分…後一刻もすれば相手方が降伏するでしょう。でも…万が一ってこともあるでしょう?貴方がいなくなってしまったら、雑賀の郷はどうなるんです?雑賀衆は…少なくとも私は、孫市様を護る為にいるんです。だから、無理はしないで下さい」

不安の色と、孫市を案じた眼差しで見上げてくる名無しに、孫市は驚いた表情を浮かべていたが、ふっと一息吐き出すと、彼女の髪をくしゃっと撫でた。

「…大丈夫、絶対に名無しを悲しませるようなことにはならないさ。お前から貰ったお守りもあるし、な」

「茶化さないで下さい」

「茶化してなんかない。それとも、名無しは俺が信じられないのかな?」

「そ、そんな事は言ってません」

ムッとしたように睨んでくる名無しを見て、孫市は苦笑する。そして彼の腕を強く掴んだままの、自分より小さな手を、孫市は己の手で優しく包んだ。

彼女はこの小さな手で自分を護ろうとしてくれているのか…そう思う彼の胸に暖かなものが広がる。孫市は名無しの手を取ると、一つ口付けをその手に落とした。

「な、何をっ!?」

「勝利の女神に俺の祈りを贈ったのさ」

途端に頬を染めた名無しに向かって、孫市は悪戯っ子のように微笑む。そして自分の髪を纏めていた紐を解くと、名無しの手に握らせた。

「これは俺から名無しに。戦場では肌身離さず持っててくれよ?」

そう名無しに告げると、孫市は銃を担いで歩き出す。

「え、ちょ、待って下さい!」

「急ぐぞ、名無し。これから最後の締めに取り掛かる。お前にも動いてもらうからな」

戦場での顔に戻った孫市は、名無しを見てニヤリと笑うと、陣の中央に戻っていった。

「…よう候!」

孫市のその言葉を聞いて、名無しも嬉しそうに笑うと、後を追うように駆け出した。

――その戦は、その後半刻で少数の部隊の手によって収束をもたらされた。そしてこの勝利によって、雑賀の名は益々全国に轟いたのである。


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