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旧戦国
1

激しい戦闘の中、孫市は陣に戻って少しばかり休息を取っていた。このままなら、あと一刻もすれば相手の陣は落ちるだろう。雑賀衆を敵に回した相手は分が悪すぎた。手強い相手ではあったが、所詮それまで、孫市達の敵ではなかったのだ。

孫市は乾いた喉を潤しながら、周囲を見た。少し離れたところに、男達に囲まれて、銃を担いだ女がいる。

「よぉ、名無し。戦場の女神は俺には話しかけてくれないのか?」

孫市は彼女――名無しに近づくと、そう言って片目を瞑った。苦笑して名無しは孫市を見る。

「部下相手にこんな所で何やってるんですか」

どうやら傷の手当を受けていたらしい名無しは、腕に白い布を巻いて孫市の方へ歩いてきた。良く見ると、細かい傷があちこちにある。

「まったく…誰だ、女性にこんな傷をつけるヤツは。あぁ、こんな所にまで…」

孫市は名無しの顔に薄くついたかすり傷を、指でそっと撫でた。

「これぐらいの傷どうってことないですよ。って、何どさくさに紛れて触ってるんですか」

名無しは溜息を吐くと、孫市の手をやんわり振り払う。そんな彼女に孫市は苦笑すると、彼女のそばに腰を下ろした。彼が座ったのを見て、名無しもその隣に座る。

「相変わらずつれないな」

「当たり前です。それに孫市様も良く見たらボロボロじゃないですか。手当て、してきたらどうです?」

「名無しがやってくれよ」

「…私は救護兵じゃありませんが」

「男に手当てされるなんてまっぴらゴメンだね」

「何を我侭言ってるんですか…」

いつも何かと理由をつけて傷の手当を拒む孫市に、名無しは呆れ顔で返した。

孫市が、自分よりも先に下の者の手当てを優先させている事は皆気付いている。だが彼はこの雑賀衆を率いているのだ。彼の傷を見て名無しが放っておけるわけがない。


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