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旧戦国
1

カナカナと、蜩の声が心地よい。

縁側では名無しが、残り少なくなった夏の日差しを頼りに愛刀の手入れを行っていた。その傍らでは、慶次がゴロリと横になっている。手には本が納まっていたが、視線は先程から名無しの手に注がれていた。

――本当に、優しげな手つきで愛でるんだねぇ。

いつもその一連の動きを見ている慶次は、毎回ある種の感動と、そして…ほんの少しの羨望の眼で、名無しの手の動きを見ていた。一つ一つ丁寧に、そして細心の注意を払いながらも軽やかに動くその動きに、指の先まで愛情が滲みでているようだ。

ふいに、慶次が名無しの手を掴んだ。

「…ねぇ。邪魔なんだけど」

慶次が刀の手入れの途中でこんなことをするのはよくある事で、名無しも以前ほどは怒らなくなった。大抵はそう言えば、慶次は手を離すのだ。だが…今日はどうやらその気がないらしい。

「慶次…」

名無しは彼を諌めようと名を呼んだが、それは慶次の次の行動で引っ込んでしまった。

「…ちょっ、慶次!何してんのよっ!!」

慌てて引き抜こうとした名無しの手をぎゅっと握り、慶次はその行為に没頭する。

彼は――名無しの手に、接吻の雨を降らせていたのだ。

慶次の唇は名無しの手の甲から平へ、そして指へと移動する。付け根から先へ舌を這わせ軽く啄ばみ、五指全てを優しく愛撫する。名無しはゆるゆると与えられる熱に、少し苦しげに眉根を寄せた。

「あんた、斬られたいのっ!?」

やっと慶次に解放された手を胸元で握り締めると、名無しは怒りと羞恥の表情で慶次を睨んだ。そんな名無しを物ともせず、慶次は彼にこう言った。

「名無しがあんまりにそいつばかり可愛がるから、アンタは俺のもんだって教えてたんだよ」


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あきゅろす。
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