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旧戦国
真夏の花・2

礼もそこそこに、孫市は包みから一本取り出す。底に錐で穴を開け、とんとん、と叩くと、つるりと中身が出てきた。孫市は竹筒から少しだけ出るように加減しながら羊羹を口に運んだ。

「行儀悪いですよ、若」

名無しが軽く睨みながら小言を言ったが、目が笑っていたので本気で怒っているわけではないのが明らかだ。孫市はそんなお小言は気にせず、もう一口齧る。

「いつ食ってもうまいんだよなぁ」

孫市はあっという間に一本平らげてしまった。

「本当に甘い物が好きなんですね」

「そりゃ美味いからだろ。それに、世の女性は甘い物が好きじゃないか。一緒に食べてれば、相手が食べている時の可愛い笑顔も堪能できるしな」

「…若らしい」

名無しは俯き加減に苦笑してそう言った。

「…名無しも一緒にどうだ?」

孫市はそんな名無しに穴を開けた竹筒を差し出す。

「いえ、私は帰れば食べられますから」

せっかく若のために持ってきたんですし、そう言って名無しは手を振った。

「…そうか」

「それより若。私も暑いんで、足、浸けさせてもらってもいいですか?」

「構わないぜ」

名無しは少し嬉しそうに笑うと、椅子を持ってきて孫市の対面に座った。

「そんな日の当たる所じゃなくて俺の横にきた方がいいんじゃないか?」

「だってそれじゃ狭くなるでしょう?私はここでいいんです」

名無しはそう言うと突っ掛けていた履物を脱ぎ、そっと足を水に沈める。

…白い足が透明な水の中でゆらゆら揺れている。孫市は普段見ることのないそれに、じっと魅入っていた。

「…若?私の足になんかついてますか?」

流石に見られている事に気付いた名無しが孫市に声を掛けた。孫市ははっ、と気付くと、言葉を返す。

「別に…そんな艶っぽい足首を晒して、無防備じゃないか?」

悪戯な視線を送りながらそう言うと、名無しは笑ってこう返した。

「今の若の方が、断然無防備ですよ?ほら…口元にさっきの水羊羹が…」

「え…っ」

そういいながら、名無しが身を乗り出すようにして孫市の口許をそっと指で拭う。彼は何かを言おうとして彼女の顔に視線を向け、そして至近距離で見たその笑顔に、言葉を失った。

まるで向日葵のような笑みに、孫市が目を細める。眩しくて、優しくて、いつも自分を甘やかす、甘い甘い、彼女。

孫市は、口許を拭った彼女の手を取った。驚いている相手をよそに、その指先をそっと己の唇に押し当てる。そして静かに身を乗り出すと、赤い顔の彼女の、甘い唇を静かに塞いだ。

真夏の太陽は、そんな二人にきらきらと光を降らせていた。

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