旧戦国 マナツノハナ 涼しげに鳴る風鈴。 パタパタと緩やかに風を送り続ける団扇。 足元には水を張った盥。 その中で、俺と名無しの足が揺ら揺らと水に沈んでいる。 対面に座る名無しは、微笑みながら団扇で俺を扇いでいて。 俺はなんとなく、盥の中の彼女の足を見ている。 あまりに見ていたからか、少し気まずそうな顔で俺に問い掛けてきた。 「若…孫市様?私の足になにか着いてますか?」 「別に…そんな艶っぽい足首を晒して、無防備じゃないか?」 悪戯にそう言うと、名無しは笑ってこう言った。 「今の若の方が、断然無防備ですよ?ほら…口元にさっきの水羊羹が…」 そしてそっと名無しは俺の口元を指で拭った。 あぁ、さっきあんな食べ方したからか、そう言おうとして彼女の顔を見る。 …そこには、真夏の日差しを受けて輝く名無しの笑顔があった。 ――あぁ、まただ。結局、君のその笑顔に勝てないんだ。そしてまた名無しに俺は甘えてしまう―― そっと孫市は身を乗り出す。 真夏の太陽がきらきらと光を降らせていた。 [次へ#] |