旧戦国 2 「しかし暑い。慶次は暑くないの?」 名無しは再びうんざりした顔で、パタパタと胸元を扇ぐ。慶次は名無しの部屋に上がりこみ、ドカリ、と腰を下ろした。 「そりゃ暑いさ。だがこういうもんだろう、夏は」 「でもこうも暑いとお天道様に文句も言いたくなるじゃない」 「そんなもんかねぇ」 「慶次は例外か。でも野暮言わないだけいいわ」 「野暮?」 「皆さ、暑いって言ったらそれだけさらに暑くなるっていうのよね」 「そうさねぇ、要は気の持ちようだと思うが」 すると名無しは心底嫌そうな顔して慶次に文句を言ってきた。 「暑い時に使うからこそ『暑い』って言葉があるんじゃない。それを『暑い暑いって名無しは言い過ぎや。そやし余計に暑くなるんや』とか抜かしやがる。我慢して言わんかったら余計に苛々するんや、こっちは!人それぞれや、大体そんなことで余計に暑なるなんて、それこそホンマに気の持ちようでなんとでもなるやん!」 興奮するとお国言葉が出る名無しは、そう言い切るとプイッとそっぽを向く。慶次は苦笑を浮かべて彼女を見た。 「別に俺が言ったわけじゃないんだがねぇ…まぁ、侘び代わりと言っちゃなんだが、良い物土産に持ってきたぜ?」 そう言って慶次は持ってきた包みを名無しに差し出した。 「何よ?」 「いいから開けてみなって」 慶次に言われ、名無しは包みを開いた。とたんに表情が明るくなる。 「蕨餅じゃない!」 「名無し、好きだったろう?途中の店で買ってきた」 「慶次、気が利くわね!ちょっと待ってて、お茶煎れてくるから」 そういうと名無しは先程の腑抜けた姿は何処へやら、茶を用意しに部屋を出て行った。暫くして戻ってくると、名無しは慶次の前に一つ湯呑みを置き、自分は慶次の対面に座るといそいそと蕨餅に手を出す。 「…美味しい!」 「そりゃよかった」 慶次は名無しの満足そうな顔を見ると、自分も嬉しそうに笑って茶を啜った。 [*前へ][次へ#] |