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旧戦国
1

照りつける日差しの中、慶次は小さな包みを手にし、とある家の門をくぐった。自分の住まいではないが、勝手知ったるなんとやら、彼は迷うことなく目的の場所に到達する。そこには一人の女がいた。

「こりゃまたいい眺めだねぇ、名無し」

開け放たれた障子の奥を覗き込み、慶次は部屋の主である名無しに対してニヤッと笑った。それもそのはず、名無しは暑さを理由に裾をたくし上げ、胸元を少し広げて団扇で扇いでいたのだ。しかもゴロリと寝転んだ状態で。

だが、名無しはそんなことはお構いもせず、慶次を見上げるとうんざりしたように言った。

「どうせこんな暑い中、くるのは慶次ぐらいじゃない。それに普通の客ならこんな所まで勝手に入ってこないわ」

「昼日中に賊でもきたらどうするんだい?」

「こーんなにあっつい日に?ないわよ、そんなこと。あっても家にはこないでしょ、私の名前を知ってるヤツらならね」

ゆっくり起き上がった名無しは、うーん、と一つ伸びをして慶次を見上げてニヤリ、と笑った。

確かに、彼女の名前を知るものなら、そうそうここへ押し入ったりはしないだろう。それぐらい彼女は強いのだ。全力の名無しなら自分と互角ではないかと、慶次は密かに思っている。

慶次が名無しと知り合ったのは、この間、この京の地で彼がならず者に喧嘩を吹っ掛けられた時だった。彼女は自分の知り合い達が巻き込まれそうになったのを見て、仕方なくならず者達の相手をした。それは結果的に慶次の味方だと思われることとなり、さらに多くのならず者の相手をせざるを得なくなった。そして慶次が騒ぎを知って駆けつけた時には、あたり一面にならず者達が転がって呻いていたのだ。その真ん中で、名無しはほぼ無傷の状態でこちらを睨んでこう言った。

「そこの旦那ぁ、天下無双の傾奇者かなんかは知らへんけど、やるなら堅気の人間巻き込まんといて。それとも、それがアンタの言うところの『粋』なんか?」

その時の名無しの眼を、慶次は今でも覚えている。今目前にいる彼女は、周りから見るとだらしない格好をしただらしない人間に見えるだろう。だが、不敵に笑って見上げてくる瞳は、とても他の人間のそれとは思えない強さがあった。


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あきゅろす。
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