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旧戦国
2

「…名無し。入りますよ?」

菓子と茶を乗せた盆を片手に、光秀は名無しの部屋の障子を開ける。気配はあるのだが…どうも静か過ぎる。第一、自分が呼んでも返事がなかったのは変だ。どうしたのかと部屋に入ると、名無しはたしかにそこにいた。

「…名無し?」

そっと彼女に近づく。すると…名無しは机に寄りかかり寝入っていた。

「…おや、眠っていましたか」

顔を覗き込むと、幸せそうに眠る名無しがいた。光秀は穏やかな笑みを浮かべ、起こしては可哀想だと静かにその場を離れようとした。

「…さま…」

その時、名無しが何かを呟いた。起こしてしまったのかと見るが、どうやらそうではないらしい。口が僅かに動いてはいるが、まだ覚醒しているわけではなさそうだ。

「寝言…のようですね」

まだ何かを発しそうに動いている唇を見て、光秀は惹かれたかのようにそれに耳を近づけた。

「…ひで…ま…光秀…様」

その瞬間、彼の耳に届いたものは、名無しが囁く自分の名前。甘い響きと共にそれは彼の心を捕らえてしまった。驚いた光秀の顔に朱が広がる。

「眠っている間も私を惑わすとは…」

驚きながらも柔らかに微笑んだ光秀は、そっと名無しの頬に口付けを落とした。

「甘いお菓子のお礼です。目が醒めたらどうぞ」

眠っている名無しの傍に持ってきた菓子を置くと、光秀は静かに部屋を出る。彼は耳に残る甘い感触を確かめるように手を当てた。

…たった一言。

…ただ自分の名前を呼ばれただけだ。

それでもこの胸に残る心地よさは、彼女だけがもたらしてくれる甘美なもの。

光秀は抜けるような青空を見上げた。

…この先何が待っているのかは分からない。だが、いつまでも名無しと共に生きていこう。

そう誓った一つの染みもない空には、明るい光が満ちていた。


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あきゅろす。
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