旧戦国 運命の日 そこはとある戦場の最前線だった。普段から噂には聞いていた凄腕の、しかも女の傭兵が、今は味方の軍で戦っていると聞いて、慶次は回りが止めるのも聞かずに松風に跨がり戦場に乗り込んだ。そこには返り血を気にすることなく、馬上で大きな柄物を軽やかに振り回す、鬼神が─―いや、戦場に降り立った女神が奮戦していた。 …こりゃ噂以上だねぇ、一度手合わせ願いたいものだ――。 最前線であるため、慶次も敵に囲まれながらそんなことを考えていた時、背後で矢を弾く音がした。振り返ると、いつの間にかあの女傭兵がいる。 「助太刀いたすっ!…慶次殿、背中がガラ空きですよ?」 そう言った彼女は、慶次好みのゾクゾクするような顔をして、旋風のように舞いながら彼の後ろにいた敵を次々薙ぎ倒していく。 ―─ミツケタ―─ 「アンタ、名はなんていうっ?」 「名無しと申すっ!」 どこか慶次を試すような顔をしてそう名乗ると、彼女は馬を走らせ行ってしまった。 ―─これから楽しくなりそうだねぇ─― 慶次はそうひとりごち、不敵な笑みを浮かべる。そして手にした矛を大きく振りかぶり、吼えるように名乗りを上げた。 「さぁ、この前田慶次とやりたいヤツはかかってきな!まとめて相手してやるぜぇっ!」 ――この戦場では、後に二人の鬼が確かにいた、と語り継がれている。 [*前へ] |