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旧戦国
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独りでこうやって過ごす夜も、もう何度目だろうか。

――慶次様…もし私がいなくなったら、私の事はさっさと忘れて下さいな――

そう笑った名無しの顔を、慶次は思い出す度に溜息を吐く。その時は褥での戯れ言だと思っていた。それに先に逝くのはきっと自分だろうから、

「その時は名無し、俺のことは忘れてくれ」

と冗談で言っていた。なのに、先に逝ってしまったのは彼女の方だった。

…そんなこと、出来る筈がない。忘れるなんて、出来る筈ない。

慶次は小さな墓石の前で懐から杯を二つ取り出し、肩に下げてきた徳利から酒を注いだ。

…名無しはそんなに強くなかったが、今日は付き合ってくれや。

そう呟くと、慶次は杯の一つを墓石の前に、一つを自分の手に持ち、ゆっくりと飲み干した。

あの日。

「名無しさんは…亡くなりましたよ」

慶次にとって最後の戦となった戦いを終え、戻った彼に届けられた言葉は、名無しをよく知る者からの彼女の訃報だった。名無しのいた町が別の戦に巻き込まれ、彼女は幼子を助けようとして戦火に巻き込まれたとのことだった。それを聞いた慶次は、名無しの墓の前で何日も座り込んでいた。泣くでもなく、喚くでもなく、ただじっと座っていた彼だったが、やがて誰にも何も告げず、姿を消した。

一年後、彼は金の鬣を禿頭に変え、名無しの墓前に姿を現した。そして名無しの墓前で一人、酒盛りをしていた。



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