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旧戦国
2

――やめやめっ!今日は夜桜見物に来てるんだから!そんなこと考えたら桜にも失礼ってもんだわ!

答えの出ない思考を散らすように名無しはぶんぶんと頭を振ると、杯に酒を注ぎ、ぐっと飲み干した。

「…っはぁ、おいし〜いっ!夜桜には良いお酒よね〜」

名無しは楽しそうにそう言うと、さらに杯に酒を注ぐ。孫市が幹を回りこんで再び名無しの横に座った。

「おい、名無し。一杯ぐらいつき合わせてくれてもいいんじゃないか?」

そういうと、孫市は名無しの杯に顔を近づけた。

「ダメよ!これは私のなんだから」

「ふぅ…つれないなぁ。そんなにケチじゃ男にモテないぜ?」

「モテなくて結構よ!」

名無しは杯を持つ手を引き、孫市が口を付けるのを阻止した。その顔は酔いの所為かほんのり色づき、少し潤んだ瞳になっている。

思いがけずその顔を間近で見ることとなった孫市は、心臓がドクンと一つ大きく跳ねるのを感じた。そして名無しもまた、酔いだけではない理由で顔を染めていた。

「そ、そんなに…欲しいなら、色街に戻れば?」

名無しは瞳を逸らせてそう呟く。だから孫市の表情の変化に気付かなかった。

「どうせ飲むなら、私みたいに子供じゃなくて、大人な方がいいんでしょ?それに…そう!ここには杯は私の分しかないんだもの!だから…っ?」

我ながら子供染みた言い訳だと思いつつ孫市に視線を戻そうとした名無しは、顔の横に気配を感じ、びくっ、と身体を震わせた。

それは――孫市が幹に両手をつき、名無しを閉じこめた気配だった。

「杯があればいいんだな?」

そう言った孫市の顔は、心なしか怒ったような表情だ。名無しは眼を見開く。

「それなら、あるぜ?」

そういうと、孫市は名無しの杯を持つ手を取った。

「ちょ…な、何を!?」

「いいから、口付けな」

孫市は有無を言わさぬ態度で名無しに杯を空けさせる。そして――彼は名無しの顎にそっと手を掛けゆっくりと唇を落とした。


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